『犠牲の先に』

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『犠牲の先に』

 「――おい、魔王、さっき魔力を使ってやがったな!!一体何してやがった!?――っあ!?」  と王真が倒れてすぐに戻ってきた勇者は公園に入るやいなや、驚愕の光景を見た。  桜が満開に咲いていたのである。もう夏だというのにそんなの関係ないと言わんばかりに堂々と、それでいて凛と美しく桜は咲いていた。  「――こ、これは?」  「――これが犠牲を払いつつ正義を貫いた結果みたいですよ」    桜にばかり気を取られ気づかなかったが、木の下では王真が倒れていて青洲はそんな王真を膝枕していた。  「犠牲を払いつつって?――まさか!?」  「えぇ、どうやら魔王様この木に自分の生命力を分け与えたようです」    「ま、まじかよ、馬鹿じゃねぇの!?」  「ですね、とても元魔王様のする事なんて思えませんね」  「――まさかスライムの意見に同意する日が来るとは夢にも思わなかったぜ」  「ふふっ――っで、あなたはこれから私達を……というかこの人をどうするつもりですか? 寝ている内に止めを刺す気じゃないですよね?」  「――そーだな」  勇者が答えずに王真の近くへと寄ってきたため、青洲は身構える。微力も微力ながら最期くらいは魔王の為に戦おうという考えなのだろう。  「バーカ、そう警戒してんじゃねえって、俺スライムみたいな雑魚には興味なんてないんだよ――それに勇者っていうもんは寝ている相手に止めを刺すなんてセコイ真似しねーよ」    ――あれっ? さっき私を人質にしてませんでしたっけ  「あん? なんか言いたげだな?」  「い、いえ、別に」  「あっそ」  それだけ言うと勇者は王真のすぐ近くでしゃがみ、王真を背負った。  「えっ? 何を?」  「あっちの三人(不良ども)はどうでもいいが、王真(こいつ)はこの世界では優等生なんだろ? だったらほっとくわけにはいかないだろ――って何笑ってやがる女?」  「――いや、なんか勇者らしくなってきたなっておもっただけよ」  「はあぁ!? 舐めた事ぬかしてんじゃねぇ!! スライム、ゴラァ!!」  「ごめんなさいね――っふふ」  「笑ってんじゃねーよ!!――チッ、仕方ねぇな今は勇者とスライムじゃなくてこっちの世界の一男子生徒と女子生徒として質問してやるよ――お前コイツの家知ってるか?」    「えぇ、知ってるわ」  王真を屋上に呼び出す前からずっと王真の事をストーキングしていた青洲は当然王真の家に行ったことは何度もある。  「――だったらさっさと教えろ」  「一男子生徒と女子生徒として話しているのなら私のこと青洲先輩って呼んでくれません? 確か一学年下でしたよね?」  「……別に俺はコイツをここに捨てて帰ってもいいんだぜ?」  「冗談ですって、ごめんなさい――ふふっ……それじゃあ行きましょうか」  「――笑うのをやめろっつってんだよ!」  そうして二人は寝ている王真を家に届ける為に桜の咲き誇る公園を後にした。
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