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 図書館から出て来る聡を見たのは十日後だった。  少し迷ったけれど、公園まで追いかけて声をかけて見た。  案の定聡は驚いて、そして見開いたままの瞳に私を映してサヤとだけ漏らした。  愛おしい顔の相手にそう呼ばれて自分の唇が震えるのが分かった。  ジンとなった鼻の頭を笑顔でねじ伏せればそれは喉まで広がらず消えてくれた。 「お仕事の帰り? 」 「そうだね。君はその、何と言うか、君から声をかけて来るとはな」  戸惑った様な聡に私はそうねと答えた。 「やっぱりまずかった? 」  聡は穏やかな表情でいいやと言ってくれた。 「僕も寂しかったんだ」 「少し話さない? 」  私達はベンチに座って、まるで付き合いたての高校生の様にたどたどしく話をした。もっぱら彼が質問をし、私がそれに答える形だった。  聡は興味深く私の話を聞き、そして私は真っすぐ向けられる彼の視線に胸を熱くしていた。メモまで取られるのはさすがに奇妙な気持ちだった。  少しのつもりだったのに、それは思った以上に続いたらしい。  外灯に照らされている事に気付けば濃紺の空にはもうすっかり星が瞬いていた。 「ああ、しまった! もう行かなくては」 「そうね、会えてよかったわ」  そう答えるしかなかった。 「僕もだ、サヤ、どんな事があろうと君の彼氏は君を忘れていない。それを覚えておいてくれ」 「わかっているわ」  少し涙ぐんだ私の両肩をポンと叩くと彼は夕闇の町へ消えて行った。  一人公園に残った私はこう呟く。 「今、あなたはどこにいますか? 私はここにいます」
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