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 次に聡が現れたのは五日後、昼食を取ろうと会社を出た時だった。  慌てて通りの陰に駆け込むのを私は見逃さなかった。 「逃げなくても良いじゃない、一緒にどう? 」  聡はばつが悪そうに人違いなんじゃないかなと目を泳がせたけど、そう言う所が新鮮に思えて思わず笑ってしまった。  私の笑顔が気に入ったのか、彼は穏やかな表情になり、人違いですけどナンパさせて下さいと言った。  幼馴染なのに初めてデートに誘われた時もナンパさせて下さいだったのを思い出してさらに吹き出してしまうと、彼もつられて笑った。  いつもよりちょっと値の張るお店に入ってデート気分に浸る。  あくまでナンパを装いたいのか幾らか他人行儀なポーズをとるのがちょっとおかしかったけれど、彼の右腕に私が学生の頃贈ったのと同じ安物腕時計が巻かれているのには胸が熱くなった。  もう高校生じゃないんだからもう少しだけ良い時計を贈ると何度も言ったのにこれで良いんだと頑なに使い続ける彼。  そんな彼が同時期にくれたネックレスを持ち歩く私。  重ねて来た数々のデートと、その頃流行っていたものが次々に脳裏を横切った。  お互い大人になってしまったけれど、聡の笑い方はずっと変わらなかった。そしていつも笑っていた。喧嘩をした後さえ喧嘩しちゃったなぁと笑っていた。幾つになってもその顔は子供みたいで、どこか保護欲さえかきたてられた。
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