19人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「......何?」
見上げるミチルの疲れの色が滲む瞳。少しまた痩せた様だと蓮は息を飲む。
突然、若者の騒ぎ声がカーテンの向こう側から割り込んだ。このアパートは風俗店街近くの立地のせいか深夜でも人の騒めきが収まる様子は無い。今夜も陽気な叫び声は真夜中まで響いている。
「......ううん。なんでもない」
ミチルは言葉を飲み込むと微笑みを浮かべて首を左右に振った。
「じゃあ、風呂に入って先に寝るよ」
「.......うん」
ミチルは小さく頷いた後、再び蓮に背を向けてティッシュが積まれたダンボールの前に座り込んだ。ゆっくりと消えていく気配と足音。
「やっぱり......言えない。だって....」
シャワーの水音が障子の向こう側から耳に届くと、ミチルは崩れ落ちる様に咽び泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!