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何故チカ姉の事を。
言葉に出せぬまま、ミチルはマユを抱く手に力を込めた。チカ姉の事は蓮も知らない。
しかも地元から遠く離れたこの都会で何者でもない私達姉妹の過去など誰も興味などなく知るよしも無い。何故.....
ミチルの動揺をかぎつけたかの様にマユが突然けたたましい泣き声を上げた。
「よしよし、大丈夫、大丈夫」
「あー、もう!だからガキは嫌いや!」
蛇は大きく白い羽根を広げると、赤子をあやすミチルから逃げる様に窓を開け、ベランダの柵を乗り越えた。
「あっ!」
静寂するネオン街。無機質な針葉樹にも見えるビルの森がミチルの視界の中でひしめいている。蛇はひらりひらりと立ち並ぶコンクリートの隙間をすり抜けて飛び、瞬く間に高く昇ってゆく。
「きゃっきゃ」
「....そうか。天使だから。知っていても当たり前だよね」
いつの間にか泣き止んだマユは、まるで蛇の空中ショーに喜んでいるかの様に笑い出している。
朝焼けの薄橙色が残る青空。小さくなる白い天使を見送りながらミチルは何かが動き出した予感に鼓動を早めた。
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