side 蓮

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side 蓮

──不思議だ。  蓮が出社すると従業員20人弱の手狭な営業所内はむず痒い違和感に満たされていた。  かと言え、所長を軸とする左右対称に整列したデスクや壁際に配置されたスチール棚、ダンボールの置き方一つにしろすべて整頓されており別段普段と変わりはない。  蓮は違和感の正体を脳内で探りはじめた。   まずは入社以来ろくに会話を交わした事のない20代半ばの地黒チャラ男が『チースッ』と馴れ馴れしく笑顔で片手をあげた。更にパワハラ常連の中堅社員達が皆、気味の悪い愛想笑いを浮かべて会釈し、決定的だったのはヒソヒソと壁際で何かを話し合っていた年増の事務員二人組が扉を開けた自分の姿を見た瞬間にピタリと口を揃えて閉じた事だ。  「今井君。ちょっと」  呼ばれた方向に視線を移すと、満面の笑みを浮かべた所長が奥のデスクから激しく手招きをしていた。  
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