side 蓮

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「あ〜、いま、あの朝日奈ホールディングスの件!?」 「はあ!?」  朝日奈の件?一体何の事だ。  蓮が眉を寄せて隣の女を見ると、長い茶髪を耳にかけ、派手な紅色の唇が何から話そうかと、もにょもにょと動いている。 「ま、まあ今井君。詳しくはあそこでコーヒーでも飲みながら話そうじゃないか」  所長がすかさず席を立ち、女との話の間に割って入ってきた。片手をあげる親指の先は事務所の裏のコーヒーショップをさしている。  蓮は無言で首を縦に振ると、既に足早に歩き始めた所長の後を慌てて追った。    事務所と隣接する20台程の月極駐車場は裏通りに直結していた。喫茶店まで僅か2分足らずの移動距離。  ちょっとそこまで、という事でコートを羽織らなかった事を喫茶店のソファーの上で蓮は身体を震わせながら後悔した。それはテーブルを挟んで向き合う所長も同じ様で、すぐさま注文したこの店の不味いブレンドをそれはもう、何度も美味そうに啜っている。  駅前に本店を置く人気のチェーンらしいが不思議と、どのアイテムを頼んでも神レベルに不味い。なのに満席なのはきっと最近入ったあの銀髪のウェイターのおかげだろう。実際、店内のほとんどが彼目当ての女性客だ。 「今日は酷く寒いな。ところで、今井くんに話というのはだね...」  所長がようやく温まった唇を動かした後、所長は早々に本題へと移った。
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