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所長は胸元から取り出した震えるスマートフォンの画面をみて声を上げた。
「悪いな!今井君。ちょっと急用が入ったから先に失礼する。近々お見合いの詳細連絡が朝比奈の方から来るだろう。その時は改めて連絡をするから、それまでにしっかり身辺整理をしておけよ!わかったな!」
「所長!何故、ミチル....いえ、僕のプライベートをご存知なのですか!?」
所長と同時に腰を持ち上げた蓮が、慌てて手を伸ばして疑問をぶつけた。
「ああ、それか。先方の使いの者から色々情報を聞いたからだ。それがまた、なかなか色っぽい眼鏡っ娘でね。あ!、ああ!また着信が。じゃ、急ぐから!失礼する...............あっ、もしもし。おい、何だよ。仕事中に電話してくるなって言っただろう?え、昨日?」
所長は左手で蓮の言葉を制し、もう片方の手でスマートフォンを耳に密着させた。
「出張だよ。えっ!何疑ってんだよ、バカ言うなよ。浮気なんてしてないって......」
「あの、所長、まだ聞きたい事が!」
蓮が語気を強めて身を乗り出した瞬間、所長が興奮した叫び声を上げた。
「だからどの女の事を言ってるんだよ!」
一気に静まりかえった店内。所長は自身に向けられた好奇な視線を掻い潜りながらスマートフォンの両手で覆い、そそくさとレジへと向かっていく。余程動揺していたのかレジで財布の小銭をぶちまけ、最後に自動ドアに衝突するオチまで残して店を去っていった。
「.......おやまあ、あれは間違いなく今から修羅場突入ですなぁ」
いつの間にか銀髪を後ろに括った噂の美青年ウェイターがテーブルの側で腕を組みながら立ち、事の成り行きを見守っていた。
銀髪のウェイターの横顔──この世成らざるレベルの端正な顔立ちに蓮は思わず息を飲む。
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