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金さえあれば。
蓮はくたびれた革の二つ折財布をカウンターの下で隠し開き、思わず溜息を漏らした。薄暗い照明の影で一枚きりの万札と制限がかけられた数枚のクレジットカードが物語る現実。
流石にもうこれでは追加は無理だ。
初見でつい、ママに見栄を張ってキープしてしまった目の前のブランデー。貧相な中身の首にかかる寂しげに光る己のボトルネームに肩を窄めてみせた。
大手製薬会社のルートセールスといえども下請けでは年収は微々たるもの。若手で、ましてや一年更新の契約社員となれば尚更だ。まだ飲み足りないが仕方ない。給料日に出直すとするか。
「ママ、会計......」
ボックス席の上客に惚ける横顔を向ける京友禅のママの姿を見つけ、声をかけようと身体を大きく捻ったその瞬間だった。
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