side ミチル

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side ミチル

 一人、壁際を向き俯くミチルは夕暮れの橙色の光を白いセーターの背に受けていた。手には木製の写真立て。中には隣の部屋で眠る生まれたてのマユの姿が写っていた。    幸せの青い鳥は待っても無駄。  確かにあの銀髪の天使はそう言った。その通りだ。今夜、蓮は荷物をまとめて家を出ていく。  わざわざ相手の女性は逢瀬を重ねる為のマンションまで用意したらしい。明日はドライブデート。先程朝比奈の使いという人達が来てアパートの駐車場の端に蓮の為に購入された2ドアの赤いスポーツカーと鍵を置いていった。あの跳ね馬のマークはどこかで見たことがある。きっとかなりの高級車なのだろう。  ミチルは木製の写真立てを裏がえし、蓋を開けた。  中から出てきたのはピンクのおくるみに包まれた生まれてのマユを抱くショートカットの女性の一枚の写真。そして小さな赤いお守り袋。 「チカ姉...」  取り出したお守り袋を右手に握り、ミチルは絞り出す様に亡き姉の名を呼んだ。   何が『恋愛成就』だ。  姉が肌身離さず身につけていたお守りの刺繍を思い出し苦笑いを浮かべた。本当にご利益があるのなら、姉はマユの父親の名を最後まで語らず、自らこの世を去る事は無かった。やはり神様なんて信じられない。 「.....嘘つき」  お守りを握る右手に力を込めた瞬間、玄関のチャイムが鳴った。  
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