side ミチル

3/5
前へ
/74ページ
次へ
「なるほど」  セラムは納得する様に頷くと、お守りを強く握りしめた。 「そうね。でも、もういいよ。七億円があれば借金も全て返せるし、生活も楽になる。それに蓮も朝比奈の令嬢と結婚すればこんな苦労を背負う事もなく一生幸せに暮らせる。世の中はお金さえあればきっと何とかなっていくものなのよ」   だが言葉とは裏腹にミチルの脳裏に浮かび上がったのは蓮との思い出の日々だった。ずっと馬鹿みたいに今も蓮を愛しているのだと溢れる涙が教えている。  蓮はマユの事や借金に対して何一つ深くはミチルに問わなかった。マユが姉の子である事実だけは言えずにいたけれども、三人はいつの間にか本当の親子の様だったとミチルはベビーベッドの縁を握る両手に力を込めて咽び泣いた。  こんなに苦しむくらいならば本気で好きにならなければ良かった。貧しくても穏やかだった。幸せというものはあの日々の事なのかもしれない。未来に対する不安と自信の無さが目を曇らせていたのだろう。  だけどお金は欲しい。生活も楽になりたい。心をごっそり食いちぎられた、この喪失感はお金で満たされれるものだろうか。 「わかった。.....,今、ミチルの心を読んだ。君は愛の為に地獄に落ちる覚悟はあるのかい。僕はセラム。愛の為に堕ちた天使。覚悟があるならば君に力を与えよう」  震えるミチルの肩にセラムは腕を回して抱き寄せると耳元でそっと囁いた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加