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「マユ!」
甲高い泣き声は部屋中に激しく響いた。ミチルは慌てて両腕を伸ばしたが、あかぎれた指先をマユの手前でピタリと止めた。
「ああ、そうか。これを待っているのね」
ミチルはゆっくりと上半身を軽く屈めてベビーベッドの中を覗きこんだ。マユはまだ顔を真っ赤にしてグズっている。ミチルは開いた手のひらを自分の両頬に添えるとベロリと舌を出して笑いかけた。
「いない、いない、ばあ」
「キャ、キャ、キャッ」
....良かった。蓮の見様見真似でもマユは泣き止んでくれた。
小さな手を伸ばし、小猿のように無邪気に笑う姿にミチルは安堵する。
不思議だ。いつもは泣き止まないのに。
『............』
「え?」
ミチルはマユの顔を二度見した。小さな唇は確かに今、不自然に動いていた。
「まさか....」
ミチルは澄んだ眼差しをむけるマユに恐る恐る耳を近づける。マユはまだ到底言葉を話せる年齢などではない。気のせいであるとは思いながらもミルクの匂いを含む吐息がかかるほど頬を近づけたその時───。
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