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side 蓮
「あはは、そんな怖い顔しながら運転しなくても...」
白百合の様に清純な様相を呈する女性がさも可笑しげに口元に手を当てながら蓮の横顔を眺めている。
「いや、こんな高級車、誰だって緊張しますよ」
フロントガラスの向こう側に伸びる高速道路の先に視線を捉えたまま蓮は自虐的な苦笑いを浮かべた。
当たり前だ。こんな郊外の一戸建てが簡単に購入出来る金額の車なんて足がすくむ。しかも話題の新型。新ジャンルのグランドツアラーと銘打ったイタリアの首都の名前をつけた跳ね馬は蓮のアクセルの踏み込みとあわせてエグゾーストノートを容赦なく響かせた。
「どう、気に入った?イタリアンクラッシックのベルリネッタスタイルが素敵でしょ?ちなみにコンフォートをドライブからレースにチェンジすると乗り心地が豹変するの。面白いでしょ?やってみて」
仕立てのいい白い上下のスーツ姿、肩甲骨まで伸びた黒髪ストレートとパッツンの前髪。
だが膝上のスカートの裾からすらりと伸びる片足は才色兼備の隙のない様相と相反する仕草を見せた。
どうやら朝比奈の令嬢はスピード狂だ。その証拠に先程から繰り返すアクセルを踏む仕草は少しずつ激しさを増している。
まずいな。
無言の圧に蓮はハンドルを握る手に力をこめた。
どうやらこれ以上機嫌を損ねるわけにはいかない。大人しそうな顔をしているが今までの会話の内容から察すると、このお嬢様はかなり我儘で潔癖、融通が効かない。
嫌な予感。
蓮が朝比奈の令嬢に促されアクセルを踏み込んだ瞬間にそれは的中した。
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