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小規模のSA駐車場は一角であれども緊迫感溢れた光景を作り出していた。何も知らずに本線から侵入してきた車からみれば間違いなく『凶悪事件の犯人の捕物劇』に遭遇したと思うだろう。
一番先頭に停車している車両から現れた警官が三鶴城の背後に走り寄ると、声を張り上げて敬礼をした。
「三鶴城警部!検査準備完了致しました!いつでもオッケーです!」
「じゃ、車内を調べさせてもらいますね。降りてください」
警官の報告を合図に三鶴城はポケットから白い布製の手袋を取り出した。慣れた手つきで素早く装着し、車内の二人に降りる様に柔らかな笑顔で促す。だがレンズの向こう側で細めた瞳が一瞬悦に浸るのを蓮は見逃さなかった。
これは、きっと何かある。
「はぁ?何その言い方は!?あなた何様!?私に指示するなんて信じられない。パパにいいつけてやるんだから!」
令嬢が三鶴城の方を睨みつけていた。心の毒と棘というものは女をこれほど醜い表情に変貌させるのだろうか。初対面で見せたお淑やかな仮面は徐々に剥がれ、本来の姿が浮かび上がっていく。
──ミチル。
蓮は今更ながらミチルの純粋な笑顔を想い焦がれ、令嬢から目を逸らした。
もしかしたらあの羽根の生えた青い女は天使などではなく悪魔であり、俺に甘言を与えて惑わせたのか。それともこれは神様から与えた試練なのか。どちらにしてももう逃げ道はない。
蓮は覚悟を決めてドアを開けた。
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