サンプル 3 青い鳥

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「........取引する?」  突然女の形相が声色と共に変化した。上目遣いのブルーアイズが光り、桃色の薄い唇の間からは獲物を喰らいつこうとする白い歯が僅かに覗いている。胸の谷間に光るものは一層甘美な輝きを強め、徐々に蓮の意識が飲み込まれてゆく。  食われる! 「きゃあ〜ん!」  わざとらしい悲鳴とガラスが割れる音が店内に響いた。 「.....あ」  恐怖で混乱した蓮は無意識に自称天使の女の手を乱暴に振り解いていた。反動で床に落ちた脚付きのグラスが割れ、天板に倒れたブランデーボトルからこぼれ出した僅かな中身から芳香が立ち昇っている。 「うわっ!勿体ない」  両手を口に当てたが時既に遅し。蓮の叫び声を耳にした黒いラメドレスのチーママが奥のカウンターから飛び出してきた。 「勿体無かったわね〜」  半笑いのチーママが蓮の先程の台詞を反復しつつ、長い袖をめくりあげると、目の前に溢れたブランデーを慣れた手つきで吹きとり始めた。  「このコスプレの女の子が急に変な事言うからだよ!うわっ!」  澄まし顔の青い女は隣で羽根をパタパタと羽ばたかせている。作り物にしては生々しくリアルな質感が半端ない。本当によく出来ている。  「凄いな!この娘、何かのイベントなの?」  興奮気味の蓮の言葉に空のボトルを抱いたチーママが眉を顰めた。 「今井さん......誰のこと言っているの?」 「誰って、ほらこの娘だよ!青い羽根が生えたチャイナドレスの.....」  
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