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「総一郎さんに噛んでもらって嬉しいです。僕のこと、末永くよろしくお願いします」
すると総一郎さんからいつもより甘い香りが溢れてくる。
思いが伝わったみたい。
番って便利だね。
そんなことを思いながら、僕達は仲良くくっついて眠った。
次の日起きると、総一郎さんは既に仕事に行ったようでいなかった。ちょっと寂しい。もう温もりも感じないけれど、残り香は色濃く残っていて、僕はそこに鼻を埋めてしばらく総一郎さんを感じていた。
なんだかいろんなことが起こって頭がついていかない。
でも、僕はここにいていいんだよね。
総一郎さんのそばから離れなくていいんだよね。
僕はそっとうなじを触ってみる。
そこはボコボコと歯型がかさぶたになっている。
本当に噛んでくれたんだ。
そのことだけでも僕の胸はいっぱいになる。
僕はオメガで総一郎さんの番。
つい先週まで考えもしていなかった状況に、なんだか心がふわふわする。
こんなに幸せになってしまって良いのだろうか?そう思っているとドアがノックされて多恵さんが顔を出した。
「蒼空さん、お目覚めですか?」
「多恵さん、ごめんなさい。僕寝過ごしてしまって」
多恵さんがいるということは、もう10時を回っているということで・・・て、もうお昼だっ。
僕は慌ててベッドから降りようとすると、それを多恵さんに止められる。
「まだお休みになっていて下さい。総一郎さんにも今日はまだ休ませるように言われています」
そう言ってそばまで来た多恵さんは優しく僕の手を取った。
「総一郎さんと番になられたと聞きました。多恵からもお祝いを言わせてください。蒼空さん、おめでとうございます」
多恵さんの目が潤んでるのを見て、僕は多恵さんにもいっぱいに心配をかけてしまったことを知る。
「ありがとうございます、多恵さん。心配かけてごめんなさい」
「本当ですよ。これからは多恵の作るごはんをいっぱい食べて、体重を戻して下さい。そしてもっと大きくなって、多恵の背を越してくださいな」
そう言っておちゃめに笑うと、多恵さんは部屋を出ていった。
その日から、僕の毎日はひたすら穏やかで優しくて、幸せに満ちていた。
学校は程なく春休みに入り、昼間は多恵さんに、夜は総一郎さんに見守られながら少しずつ食を戻して、ようやく体重が戻ってきた。けれどそれと比例するように背も伸びて、全体的に痩せすぎの感じは消えず、二人の心配はまだ尽きない。さっきももうお腹いっぱい夜ごはんを食べたのに、食後のデザートが出てきて苦しかった。無理に食べろとは言わないんだけど、食べないとものすごく心配そうな顔をするから、つい食べてしまう。そしてお腹パンパンで苦しくなっちゃうんだよね・・・。
オメガだって分かったから安心してるけど、最近ちょっと成長しすぎ。
いままで伸びなかった分を挽回しようとしているのか、僕の背はまだまだ伸び続け、膝が痛い。そう思いながらリビングのソファで寛いでいると、不意に電話が鳴る。最近では携帯が主流で滅多に鳴らない固定電話。
なんだろう・・・。
そう思いながら立ち上がると、ちょうど入ってきた総一郎さんが受話器を取る。そしてしばらく会話をすると、そっと電話を切った。
「良くないことですか?」
こちらに来る総一郎さんの顔が浮かない。
「蒼空くんの家からだったよ」
その言葉に僕は固まる。
実家から?
今まで一度も連絡なんてなかったのに・・・。
なんだか嫌な感じがする。そんな僕の心が分かったのか、隣に座った総一郎さんが肩を抱いてくれる。
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