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僕は初めて訪れた家の玄関で深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
下げた視線の先に、多分この家の主の物だと思われる足が見える。それを見ながら3秒待ち、ゆっくり頭を上げた。そして見えたのは、驚いたように僕を見る先程の足の持ち主。僕は今日、彼に嫁いできた。
僕の家は古くから続くアルファの家系。代々アルファはオメガと結婚して、アルファを生み出して来た。だけど、アルファのみが生まれる訳じゃない。そこにはオメガやベータも生まれる。
アルファが生まれればもちろんその家の跡継ぎになるし、兄弟姉妹もアルファだったらそのまま一族内に残って大事なポストにつくけれど、ベータやオメガはそうはならない。
常にアルファとオメガの婚姻を繰り返してきた一族内では、ベータが生まれる確率は低く、もしベータが生まれたらそのまま一族内にいることもできるけど、要職にはつけない。だから、中には外に出て全く一族とは関係ない仕事につく者もいる。
だけど、オメガはどんなにいい血筋に生まれても、一族内にいることは出来ない。そして外に出ることも許されない。他家のアルファに嫁がなければいけないんだ。
オメガの出生率はすごく低い。一族内でもそれほど多くはないけど、アルファを生む確率は世間より高い。なので一族内でオメガが生まれた場合、その嫁ぎ先は一族で決められてしまう。そして血が濃くなることを避けるために、協力関係を結んでいるいくつかの他のアルファ一族の元に嫁ぐことになっているんだ。
僕は小さい頃から身体が小さくて、大人しい性格だった。だからアルファである確率は低くて、オメガかベータだと思われていた。それは大きくなっても変わらなくて、身体の線は細いままだったからベータの可能性も外されて、ほぼオメガであると判断された。なぜ『ほぼ』なのかというと、まだ第二性診断を受けていないし、発情期も来ていなかったから。それでも僕はオメガとして嫁ぎ先を決められて、今日ここに来た。
僕は相手が誰だか知らない。ただここに来るように言われただけ。
今日、小学校を卒業した僕はそのままここに来て、今日からここで暮らすように言われている。どうしてこんなに早くからここに来たのかと言うと、第二性診断は中学二年で行うからだ。それから嫁ぐと学校を変わらなくてはいけなくなる。だったら最初から嫁ぎ先から通えば学校を変わらなくて済むからと、今日嫁いできたのだ。
だけどまだ12才の僕は結婚できないし、発情期も来ていないので番にもなれない。だけど、いざ発情期が来た時に直ぐに番って子供が出来るよう身体を準備するようにと言われている。
オメガはアルファを生む道具だから。
子供を生むのに年齢は関係ない。オメガの場合発情期が来れば、子供を生むことができる。だからそれは早ければ早い方がいい。だってその子供の第二性が分かるのは遅くても14才。その時にアルファじゃないと分かっても、初産が早ければまだ子供を生める。
世間ではオメガの地位も上がってるのに、ここみたいに古い慣習を続ける一族がまだある。
昔から続く一族の血が絶えないように、必ずアルファを生み続ける一族。そのうちの一つが僕の一族。
初めは同族内でしていた結婚も、血が濃くなってくるとアルファどころか子供そのものが生まれにくくなって、一族自体がなくなりそうになった。だけど同じような一族が集まって、協力し合うことで同族の血を薄めて、また出生率を上げることにしたのだ。
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