第30話:女と母の強さ

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第30話:女と母の強さ

 店内に侵入した子鬼(ゴブリン)が、子どもを襲っていた。  俺は単身で救助に向かう。 「いた。あそこか」  事務所前の通路で子鬼(ゴブリン)を発見。  数はそれほど多くはない。  おそらく裏口の狭い窓からでも、侵入してきたのだろう。 「子どもは事務所の中にいるな。ん……アイツは?」  事務所の前で、槍を振り回している人物がいた。 「マリア……か」  彼女はたった一人で槍を振り回し、子鬼(ゴブリン)を牽制している。 「ここは絶対に通さないわ! 絶対に子どもたちには、手を出させないわ!」  いつもは妖艶で、余裕さえあった笑顔のマリア。  だが、そんな彼女が今まで見せたことがない必死の形相。  子どもたちを命かけて守っていたのだ。 「やはり面白な女だな、アイツは……はっ!」  俺に腰の剣鉈を抜いて、斬り込んでいく。  狙うはマリアヲ襲っている子鬼(ゴブリン)の首元だ。  ――――ズッ、シャ!  ――――ズッ、シャ!  強化された刃先で、子鬼(ゴブリン)の首を斬り落としていく。 「あっちもいるのか? はっ!」  ――――ズッ、シャ!  ――――ズッ、シャ!  他にも潜入してきた子鬼(ゴブリン)を、連続で殲滅していく。 「ふう……これで全部か」  侵入してきた数は、それほど多くなかった。  二分ほどで全滅させる。 「大丈夫か?」  槍を構えたまま呆然と立ち尽くすマリアに、ゆっくりと近づいていく。 「レ、レンジ……?」 「ああ。店内は安全になった。その槍を降ろしていいぞ」 「あっ、うん……」  固まっていたマリアの落ち着かせてやる。  たった一人で彼女は奮戦していたのだろう。  倒した子鬼(ゴブリン)の返り血も浴びていた。 「よく守ってくれたな。お前のお蔭で、後ろ子どもたちは全員無事だ」 「ほ、本当? よかった……わ」  彼女は無我夢中で戦い、子どもたちを守っていたのだろう。  全員が無事だと聞いて、初めて安堵の表情を浮かべる。 「ん? 真美も無事か」  真美は事務室の中にいた。  泣き叫んでいる子どもたちを、懸命に剣気づけている。  こいつも非力ながらも、自分の責務をこなしていたのだろう。 「レンジ……私……無我夢中だったの……」  赤緑色の返り血で染まった自分の手を、マリアじっと見つめていた。  人型の生物を刺殺し、感情が混濁しているのだろう。 「ねぇ、レンジ……“今度こそ”、私、子どもを守れたのかな……?」  マリアはいつもとも違う表情を向けてくる。  質問の内容から、これは“母マリアの顔”なのだろう。 (自分の子どもと、ダブらせたのか)  彼女は自分の幼い子どもを死なせてしまった。  今までずっと後悔して生きてきたのだろう。 「ああ。お前はよく守った。だから前を向け」 「そうね……うん、分かったわ」  俺の言葉で少しだけ落ちついたのだろう。  重荷が降りたように、マリアは微かに笑顔を取り戻す。 「あとは俺に任せて、お前も事務室に籠っていろ。ガキ共を頼むぞ」 「うん……レンジも気を付けてね」  マリアと別れて、俺は店内を移動していく。  破られた裏口の窓を発見。  大きな荷物で完全に封鎖しておく。 「裏口は……もう大丈夫そうだな」  女将が手配した援軍が駆けつけていた。  金属シャッターを閉めて、バリケードで封鎖している。  この分なら、もう裏口は大丈夫だろう。 「さて、他は大丈夫か?」  他に破られた場所がないか、店内をくまなく確認していく。  空気口や屋上入り口など、丹念に確認してみる。 「さすが堅牢なホームセンターだな。大丈夫そうだな」  倉庫型のホームセンターなので外壁は頑丈。  人間より非力な子鬼(ゴブリン)には破られないだろう。 「さて、正面の手伝いにいくか」  後方の杞憂は断った。  あとは正面にいる二百匹以上の子鬼(ゴブリン)を、各個撃破で仕留めたら戦いも終わりだ。  ――――そんな時だった。  ……ブゥウウウ――――! ファ――――ン!  店外が急に騒がしくなる。  大型車の排気音やクラクションが聞こえてきたのだ。 「やっと来たか」  聞き覚えのあるダンプカーのクラクション音。  高木社長たち強襲部隊がホームセンターに戻ってきてくれたのだ。 「「「やったぁあああ!」」」  女衆の雄たけびが正面から聞こえてくる。  頼もしい男衆の帰還に、誰もが歓喜して雄たけびを上げているのだ。 「さて。これで何とかなりそうだな」  援軍ホームセンター強襲部隊の戦闘力はかなり高い。  しかも今は女衆との挟撃できる配置になっている。  両方から挟んで攻撃していけば、二百匹でも必ず殲滅できるだろう。 「さて、俺も手伝いにいくか」  俺は店内の安全を再度確認しながら、正面玄関へと向かっていく。 「それにしても今回の連中、この大規模さは、どういうことなんだ……」  移動しながら疑問を口にする。  二百以上の大規模な子鬼(ゴブリン)の集団を、俺はこれまで見たことがない。  しかも連中は苦手な昼前に、軍隊のように行軍してきた。明らかに普通の集団ではないのだ。 「つまり“いる”のか? この集団のとこかに?」  ――――そう推測した時だ。  ……ドォ――――ン!  店内に衝撃音が響き渡る。  頑丈ははずのホームセンターがグラグラ揺れていた。  まるでダンプカーが突進してきたような衝撃音だ。 「場所は……あっちか⁉」  場所は店側の西側、入り口もない壁しかない箇所。  俺は急いで確認に向かう。 「もしや……」  嫌な予感が全開でしていた。  俺は前方を警戒しながら、尚且つ全力で店内を駆けていく。 「……あの穴か? さっきの衝撃は」  外壁に大きな穴が開いていた。  強度が高いホームセンターの外壁が、縦にざっくりと破られていたのだ。  そして縦穴の奥に、動く影が見えてきた。 「アイツが……犯人か」  縦穴から店内にゆっくりと侵入してくる人型の影があった。  いや、人型だが大きさが尋常ではない。  全長3メートル以上の巨大な子鬼(ゴブリン)。  いや……鬼のような風貌で鋭い牙を持った、巨大な大鬼(オーガ・ゴブリン)だ。 「こいつが元凶か。今回、指揮していた“ボス”か」  こうして桁違いに危険な子鬼(ゴブリン)の上位種、巨大な大鬼(オーガ・ゴブリン)と俺は対峙するのであった。
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