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第27話:強襲部隊、出撃
大作戦決行日の朝がやってくる。
今朝は誰もが日の出前から、作戦の最終準備をしていた。
そして時間は午前11時、強襲部隊の出撃の時間がやってくる。
◇
……ざわざわ……ざわざわ……
ホームセンター前の駐車場、強襲部隊が勢ぞろいしていた。
大型のダンプカーを中心に、数台のトラックと人員輸送用のワンボックス。
機動力があるバイクも数台いる。
そして槍と盾で武装した屈強な男たち。
女子ども衆はバリケードに守られたホームセンターから、彼を見守っている。
まるで戦国時代の戦前のような壮観な光景が、ホームセンター前に広がっていた。
(いよいよだな)
そんな中、俺も駐車場で待機中。
誰もが総大将である高木社長の号令を、今か今かと待っていた。
「……おい、野郎ども、準備はいいか⁉」
ダンプカーの上、高木社長が声を張り上げる。
出発前の最後の激が飛んでくる。
「これから向かう先には、やばい数の化け物……子鬼どもがいやがる」
俺が話している内に、ホームセンター組にも子鬼という呼称が定着していた。
「昨日から色んな準備もしてきた。だが危険な作戦なことは変わらなねぇ。もしかしたら死傷者もでるかもしれない」
……ざわざわ……ざわざわ……ざわざわ……
死傷者が出る可能性がある、と聞き駐車場がざわつく。
誰もが不安な顔になる。
「だがメリットは何倍もでけぇ! 成功したあかつきには、大量の食料が手に入る! 食い切れねぇくらいの白米や肉、魚の缶詰を、俺たちは手に入れられるんだぁ!」
……ざわざわ……ざわざわ……
大量の食料と聞いて、全員の目の色が変わる。
何しろ食料は誰も一番欲しい物資。
この世界では命を賭ける価値があるのだ。
「今日の作戦は絶対に成功させる! だから俺についてきてくれぇえ! ここに残して大事な者を、守る力を俺に貸してくれぇ!」
高木社長は枯れんばかりに叫ぶ。
自分の偽りなき想いを、仲間たち伝えていた。
「「「うぉおおおおお!」」」
それを受け、男衆も声を上げる。
興奮と高揚。
歓喜と熱狂。
色んな感情が混じった雄叫びが、駐車場に響き渡る。
まさに決戦への出陣前。
全員の士気が最高潮に高まったのだ。
「よし、それでは行くぜ、野郎ども!」
……グルル……ブルル……
社長の号令と共に、各車両のエンジンに火が灯る。
……ブゥン! ……ブゥン! ……ブゥン!
空吹かしにした廃棄音が、轟音となり身体に響いてくる。
いよいよ強襲部隊が出陣する時がきたのだ。
「たいした演説だったな、社長」
名演説を終えて降りてきた高木社長に、俺は称賛の言葉を送る。
この傑物のお蔭で部隊の士気が上がり、団結力は強固になっていたのだ。
「若い頃は消防団もやっていたから、“昔取った杵柄”というやつだ」
社長は少し恥ずかしそうに、白い歯を見せてくる。
少し緊張はしているが、高揚感で恐れはない顔。
本当に肝が座った男だ。
「そっちの方、トラック部隊は頼んだぞ、レンジ」
「善処はする。正面も頼んだぞ」
「ああ、任せておけ。思いっきり目立って引きつけておく」
今回の作戦は正面の陽動部隊と、裏口のトラック部隊の連携が肝になる。
どちらかがミスをしても作戦は失敗してしまうのだ。
俺は社長と別れ、トラック部隊の合流。
助手席に乗って出発の時を待つ。
そんな俺たち強襲部隊に、声をかけてくる者たちがいた。
「……みんな、死ぬんじゃないよ!」
「……絶対に生きて帰ってきてよぉ!」
「……パパ、頑張ってぇえ!」
留守の女子ども衆が、激励を言葉が飛ばしてきたのだ。
自分の夫や父親、深い仲の男たちを、彼女たちは複雑な感情で見送っている。
(ん? あれは……真美か)
そんな中に真美もいた。
俺の方に向けて『レンジ……生きて帰ってきてね!』と声援を送ってくる。
(ふっ。あいつも柄にないことをして)
ホームセンターでの生活で、だいぶ女衆に感化されたのだろう。
前の真美では考えられない女房面をしていた。
(さて、そろそろ出発しそうだな。ん? あれは……)
出発直前、屋上の人影に気がつく。
髪の長い女が一人で屋上にいたのだ。
(マリアか)
俺たちの出陣を、彼女も見送っていた。
手は振らず、声援も発していない。
「…………」
だが強く瞳で俺たちを見送ってくる。
――――ブゥ――――!
高木社長の運転するダンプカーが、甲高いクラクションを鳴らす。
いよいよ出撃の時が来たのだ。
――――ブゥン! ブルルン!
強襲部隊のエンジン音が、一層高く鳴り響く。
各車両が一斉に動き出す。
向かう先は食料倉庫、百匹以上の子鬼の巣窟だ。
(さて、いよいよか)
こうして一世一代の俺たちの大作戦が始動するのであった。
◇
強襲部隊は順調に進んでいた。
道中の子鬼を警戒しながら、少し遠回りのルートで移動してく。
そして出発から数十分後。
強襲部隊はついに倉庫前に到着する。
「よし、クラクションを鳴らせぇ!」
総大将、高木社長の指示で、正面部隊が動き出す。
――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!
無数の大型車によるクラクション攻撃。
耳鳴りがするほどの激音が、倉庫前に響き渡る。
『ゴブブ⁉』
『ゴブゥウ⁉』
倉庫の中にいた見張りの子鬼が、飛び跳ねて驚く。
大部隊の敵襲があったことに気が付き、倉庫内に逃げていく。
中にいる百匹以上の仲間を、援軍として呼びにいったのだ。
「よし。訓練とおり、配置につけぇ!」
「「「うぉおお!」」」
子鬼が来る前に、正面部隊は戦闘配置につく。
ダンプカーを中心にして、数台のトラックをVの字型に展開。
俺が教えた“鶴翼の陣”の陣形をなる。
陣形を形成後、男衆は各車両から降車。
ダンプカーとトラックの上にハシゴで昇っていく。
「絶対に子鬼を登らせるなよ!」
「この高台を死守するんだぞ!」
「滑り落ちないように、無理はするな!」
正面部隊の目的は敵の殲滅ではない。
陽動で時間を稼ぎ、相手を引きつけることが目的なのだ。
その戦い方も俺が発案した、高所からの攻撃。
なるべく負傷者を出さないように、投石や投げ槍、投網で、一方的に攻撃していく戦術なのだ。
(なかなかの練度と、車両の改造だな)
溶接や大工たちの手によって、ダンプカーとトラックの上は城壁のように強化済み。
あれなら子鬼の遠距離攻撃、投石や投げ槍は防御できるだろう。
しかも味方に大盾も装備している。
落下さえ気をつけて戦えば、正面部隊の被害は最小限になるはずだ。
(さて、俺も戻るとするか……)
そんな味方の雄姿を確認して、俺は去っていく。
裏口に近くに隠れているトラック部隊に、俺も合流するのだ。
◇
戻ってきた俺は、トラック部隊に状況を報告する。
「……という訳で、向こうは順調。タイミングを見計らって、こっちもいこう」
正面部隊の戦いは、すでに始まっていた。
遠くから雄叫びや金属が聞こえてくる。
火炎瓶攻撃の黒煙が上がっているのも見える。
正面では予想以上の激戦が、今繰り広げだれているのだ。
裏口から侵入するのも、今ならタイミング的には悪くない。
「――――っ、ひっ⁉ い、いよいよかよ……」
短め金髪な若者、鉄男が声をもらす。
彼は今回、トラック部隊に配置されていた。
だが実は小心者の彼は、恐怖で足が震えていたのだ。
「喧嘩無敗のところを見せてくれよ、先輩」
仕方がないので俺は声をかけてやる。
今回の作戦は一人でも怖気づいたら、失敗の可能性があるからだ。
「あ、あ、当たりめぇだろう⁉ 俺さまの強さを、みんなに見せてやるぜ!」
鉄男は鉄パイプをブンブン振ります。
相変わらず技もない攻撃だが、なんとか緊張は解けていた。
これなら最低限の仕事はできるだろう。
そんな状況を見て、トラック部隊の隊長、専務が声を上げる。
「よし。こっちもきましょう!」
裏口に子鬼の影がないことを確認して、作戦始動が開始される。
――――ブゥウウ! ―――――――ブゥウウ!
二台のトラックが、一気に裏口に接近。
そのままピタリと搬入口に接舷させる。
㎝単位の運転テクニック。
さすがは運送のプロドライバーの運転技術だ。
「それでは見張りは中の警戒をしてください! 他の人はフォークリフト降ろして、食料を詰み込んでいってください!」
専務が指揮するトラック部隊は、7人だけの少数精鋭。
作業を分担して、次の作業に移行していく。
俺と鉄男は見張り班だ。
「ひっ――――⁉ 中は……」
「先輩、いくぞ」
怯む鉄男を引き連れて、俺は倉庫の奥に進んでいく。
見張り班の仕事は、子鬼はこっちにこないか警戒。
もしも近づいてきたら排除しなくてはいけないのだ。
(今のところ、近くには裏にはいいないな? これならスピーディーに積み込めるな)
二台のフォークリフトは既に作業中。
パレットのまま食料をトラックに積み込んでいた。
こちらの操縦もお見事な腕前。
専務が中心になりスピーディーに効率よく積み込んでいた。
「――――っ、ひっい⁉」
そんな時、俺から少し離れていた鉄男が、情けない悲鳴を上げる。
その視線の先には二つの影、二匹の子鬼がいた。
「あれは……正面から逃げてきたヤツか?」
子鬼は腕に火傷を負っている。
火炎瓶攻撃をまともに受けて、裏まで逃げてきたのだろう。
『ゴブブぅ⁉』
しかも運が悪いことに、相手は鉄男に気が付いていた。
このままだとあの若者は殺されてしまう。
「ふう……やるしかないな」
こうして俺にとっての戦闘も幕を開けるのであった。
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