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第6話:真美へのアドバイス
岩倉真美との性的な行為が終わる。
俺は満足感に浸っていた。
「これを飲むとスッキリするぞ」
放心状態の真美に向かって、俺はペットボトルのリンゴジュースを手渡す。
「はぁ……はぁ……でも、飲み物は対価を……」
「安心しろ、これはサービス。タダだ」
「タダ⁉ それならもらうわ! ごくごく……ごくごく……」
タダと聞いてマミはリンゴジュースを奪い取り、一気に飲み始める。
「ごくごく……はっ⁉ っ……」
だが彼女は半分ほど飲んだところでハッとなる。
ペットボトルに蓋をして飲むのを止めた。
(残すのか? 賢明な判断だ)
この状況では甘いジュースなど簡単には手に入らない。
彼女はそのことに気が付き、今後のために半分残すことを決めたのだ。
ガチャ……ガチャ……
そんな真美を横目で見ながら、俺は下着とズボンを履きなおす。
体力的も精力的にまだまだ余裕はある。
だが今日はこれからもっと厳しいこと、マンション外の探索をしなければいけないのだ。
「さて、これは約束通りの対価だ」
俺は非常食をテーブルに置く。
全部で6日分。
「…………あんた、本当に最低よ…………」
久しぶりの糖分を摂取して、真美は冷静になったのだろ。
今まで見せたことがない軽蔑の表情で、侮蔑の言葉を俺にぶつけてきた。
ガサ……ガサ……
だが非常食はちゃんと自分の手元にとっていく。
「人の弱みに付け込んで、こんなことをさせるなんて、本当に最悪よ……」
まるで親の敵でも見るように真美は睨んできた。
ここで俺を怒らせても、彼女にはデメリットしかない。
だが言わずにはいられなかったのだろう。
今まで抑えこんできたドス黒い感情を、どうしても吐き出さずにはいられなかったのだ。
「ああ、俺は最悪な男だ。何しろ善人でも、ボランティアでもない。お前に食料を分けたのも、ギブ&テイクの関係だからだ」
「ギブ&テイク……って……そ、それはそうだけど、でも……」
「それじゃ時間が惜しいから、そろそろ行く。約束とおり一度はここに戻ってくる。あまり遠くまで偵察にいく予定はないが、早めに戻るつもりだ」
俺の外出の目的は、主に外の世界の情報収集。
・綺麗な水と食料の状況確認。
・安全な拠点の確保。
・外の情勢がどうなっているかの確認
・危険性物の確認
など調べることは数多に渡る。おそらく一週間ちかくかかる大仕事。
だからマンションに戻ってくることも、実は大きなタイムロス。
だが約束をした以上は、一度は戻る、と真美に伝える。
「あと、確実に俺が来られる保証はない。覚悟しておけ」
「そ、そんな⁉ 戻ってくる保証がないって……」
「ああ、そうだ。もしも十日過ぎても戻ってこなければ、俺は死んだと判断しろ」
「そ、それじゃ残された私はどうすればいいのよ⁉」
「知るか。自分で何とかしろ」
「そ、そんな……」
真美は青い顔になる。俺が戻ってこない可能性が、それほど不安にさせていたのだ。
「ふう……仕方がない。それじゃ俺がいない間は……“これ”を一人で集めておけ」
俺は手帳に箇条書きでメモして、ページを破って真美に渡す。
「これって……乾電池に米、生理用品、医薬品、綺麗な下着衣類……これって生活必需品を集めろってこと?」
「ああ、そうだ」
彼女に渡したのはメモに書いてあるのは、どこの家庭にもある生活用品。今後、真美が生きていく上で必要なモノばかりだ。
「たしかに喉から手が出るほど欲しいけど、どこから集めれば……」
「このマンションの他の部屋から集めておけ。見た感じ、ほとんど空室だからな」
空き部屋に残っている物資はわずかだろう。
だが10部屋分でも集めたら、かなりの量になるのだ。
「そりゃ、そうかもしれないけど、でも、それって泥棒じゃ……」
「今は無政府状態で緊急時だ。自分の命を守るために割り切れ」
「自分の命を守るために……割り切る……?」
「ああ、そうだ。厳しい世界では、割り切れず覚悟がない者から、死んでいく。覚えておけ」
災害が起きた時などの火事場泥棒は、明らかな犯罪。
だがモンスターが出現して世界は崩壊した。
警察消防、自衛隊すらも見えない今は、災害すらも超えた異常な状況なのだ。
それに空き家に住人が戻ってくる可能性は皆無。火事場泥棒をしても誰も困らないのだ。
「割り切れず覚悟がない者から、死んでいく……わかった。やってみるわ」
真美は覚悟を決めた顔になる。俺の言葉を聞いて、自分が置かれている状況を把握できたのだろう。
「悪くない顔だぞ」
「う、うるさいわね! 急に褒めても、絶対に許さないだから!」
「あと、俺がない間に、その恰好を何とかしておけ」
「えっ……私の格好を?」
「ああ、そうだ。たとえ自分の部屋の中でも、そんな無防備な服装は止めておけ。常に保温性を調整できる格好で、野外でも動きやすい服装にしておけ」
真美はタンクトップに短パンという無防備な恰好でいる。
たしかに女性的には魅力的な格好だが、サバイバル活動にはまったく向いていないのだ。
「わ、わかったわ。たしかに無防備だったかも、今までの私は。指示通りに、すぐ逃げられる格好にするわ」
「いい柔軟性だ。あと、家の中でもスニーカーを履いて生活する習慣をつけておけ。できたら寝る時も靴は近くに置いておけ」
「家の中でも靴を⁉ あっ、そうか。すぐに逃げるためにか。わかったわ、今日から靴も履くわ」
真美は性的なプライドが高い女だが、バカではない。素の頭は良く柔軟性もある。
この分なら今後も何とかなるだろう。
「それ以外の知識が知りたいなら、俺の本棚にあるサバイバル関係の本を読んでおけ。鍵はかけていかないから、勝手に持っていけ」
「えっ……いいの? 沖田さんの部屋に勝手に?」
「あの部屋も破棄する予定だからな。自由に使え」
「わかった。落ち着いたら勉強してみるわ」
真美は一人で生き残るため、俺からのアドバイスは素直に受け取る。表情もいつの間に明るくなった。
「あと、生きている住人を見ても、すぐに信用はするな。分かっていると思うけど、特に“男”には顔見知りでも、あまり近づくな」
顔見知り……たとえ会社の同僚や上司、同級生でも、この崩壊した世界では“男”は信用ができない。
何気ない顔で真美に近づいてきて、ひと気のない場所でいきなり豹変。たとえ顔見知りでさえあるのだ。
「理由は分かるだろう?」
「沖田さんのせいで……嫌というほど分かったわ。男には絶対に近づかないわ!」
少しだけ素直になっていたマミが、再び鋭い視線を向けてくる。軽蔑と警戒心が強いの視線だ。
「悪くない顔だな。他人に涙目で懇願する顔よりも、俺はそっちのキツイ顔の方が何倍も好感が持てるぞ」
「――――っ⁉ な、なにを急に言い出すのよ⁉ そ、そんなことを言っても、絶対に許さないんだから……」
真美は何故か顔を真っ赤にする。
泣いたり怒ったり、恥ずかしがったり、ころころと表情が変わる、本当に変な奴だ。
「あと、最後にアドバイスがあるとしたら、もう少し“性技”に勉強しておくことだ」
「ん? せいぎ?」
「ああ。俺の部屋にポータブルDVDがあるから、アダルトビデオでも見て勉強しておけ。今の真美の拙い性技だと、次は対価を支払う価値はないからな」
今回は初回特典ということもあり、真美の拙いフェラチオにも対価を払った。
だが男性の性欲というのは底がなく、拙いだけではいずれ飽きてしまうのだ。
「せ、性技って、そういうこと⁉ う、うるさいわね! ヘタで悪かったわね! 時間が惜しいんでしょ⁉ 早くいってよ! もう、この最低男ぉ! 屁理屈男!」
「いい顔だな。はっはっは……それじゃ行ってくる」
最初に出会った時は、屍のように覇気がなかった真美。
だが今は顔を真っ赤にして怒れるほど元気になっていた。
これなら俺がいない間で、何とか一人で大丈夫だろう。
「ふう……さて、それじゃ。行ってくる」
真美との雑談で時間が過ぎていた。
危険な外の世界に出発する時間がきたのだ。
「ね、ねぇ。約束通り……九日以内に、絶対必ず戻ってきてよ? 食料をもってきてさ……」
「善処しておく」
複雑な表情の真美に見送られながら、俺は彼女の部屋から出ていく。
向かうはマンション外の世界。
危険な子鬼が跋扈する崩壊した世界だ。
(さて世界はどうなっているんだろうな……)
だが俺の心は何故か高まっていた。
こうして本格的なサバイバル生活が幕を開けるのであった。
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