第4話:ハメルーン城

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第4話:ハメルーン城

 隣国のハメルーン国に到着。  なんと助けた銀髪の少女マリエルは、国の第三王女だった。  現在無職のボクは、いきなり隣国の王様に面会することになる。 「おお、そうか。そなたが我が愛娘マリエルを、助けてくれたのか! 感謝するぞ、ハルクとやら!」  マリエルのお父さん、ハメルーン国の国主は気さくな人だった。  応接室でボクに感謝の言葉を述べてくれた。  前のミカエル王国の現国王とは、まるで違う。  あの王様は本当に傲慢(ごうまん)で、他人に感謝な言葉など言わなかったのだ。  いつも謁見の間で、偉そうに玉座にふんぞり返っていた。 「いえ、国主様。ボクは偶然通りかかっただけです。それに魔物を倒したのも、偶然……というか、何かの見間違いだと思います」  そんな優しい国主様だから、ボクは正直に話す。魔物を倒したのは、ボクではないと。 「ん? そうなのか?」  国主様は騎士の一人に訊ねる。馬車の護衛をしていた人だ。 「も、申し訳ありません、殿。あまりの速さに何が起きたか、私には見えませんでした。気がついたら“地走竜(アース・ドラゴン)”が爆散。ハルク殿がハンマーを持って、跡地に立っていたのです」 「ふむ、そうか。ハメルーン有数の騎士のお前で、見えなかったのか。ふむ、不思議なことも起こるものだな」  何やら護衛の騎士と、国主様は話をしている。難しい顔をしていた。 「さて、待たせたな、ハルクよ。大事な娘を助けた礼を、授けたいと思う。望みの金額を述べよ」 「えっ……望みの金額ですか?」  まさか言葉が出てきた。  こういう時は何て答えるのが、正解なのだろうか?  きっと、あまり少なくても失礼にあたるのだろう。  逆に多すぎても、困らせてしまう。何しろハメルーン国は、今は困窮している。  この王宮の質素な暮らしを見ているだけで、お金に困っていることは一目瞭然だ。  よし、それなら。 「それなら許可証を下さい!」 「ん? 許可証だと? 何のだ?」 「はい。ハメルーン街に住む許可証か、市民証を下さい。恥ずかしながら、着の身着のままで引っ越してきたので」  ボクが望んだのは、街で暮らしていくための権利。  これならほとんど経費は掛からないだろう。 「はっはっは……まさか市民証を望んでくるとは。ああ、そのくらいはお安い御用だ! 発行してやろう! あと、僅かだが生活費もセットで付けてやろう。その位なら、問題はないだろう、ハルクよ?」 「はい、ありがとうございます。心遣いに感謝します!」  お互いの上手い落とし所に、収まった。  護衛の騎士の人から、市民証とお金の入った袋をもらった。  貰ったら中身は十五万ペリカ。  大陸共通のお金で、一ヶ月分くらいの生活費だ。  お金はネコババされてしまったので、これは本当にありがたい。 「それでは失礼します」  挨拶をして応接室を出ていく。  さて、難しい話は終わった。あとは街に出て、『冒険者ギルド』という場所を探そう。  前の城で読んだ本によると、そこで冒険者に登録できるらしい。 「ハルク様!」 「あっ、マリエル」  廊下で駆け寄ってきたのは、銀髪の少女。この国の第三王女のマリエル姫だ。 「あっ、ごめん。呼び捨てしちゃった」 「いえ、大丈夫です。ハルク様は私の命の恩人。そのままの方が、私も嬉しいです」  敬語はあまり得意ではない。マリエルの好意に甘えることにした。 「報奨金の方は貰えましたか? ここだけの話、父は金にはケチなので……」 「いや、ちゃんと頂戴したよ。あとは市民証ももらえたよ。これで今日からハメルーンの市民さ」 「ああ、本当ですか! それなら、こちらこそよろしくお願いします」  向こうはこの国のお姫様で、ボクは引っ越してきたばかり無職。  なんか不思議が会話をしている。 「それじゃ、そろそろ失礼するね。マリエル」 「はい。また気軽に城に遊びに来てください、ハルク様!」  マリエルに見送られて、王宮を後にする。 「『気軽に城に遊びに来てください』……か」  そう言われても、気軽に城には遊びに来られない。  いくらハメルーン城が気さくな雰囲気でも、ボクは一介の冒険者志望。  たぶんにお姫様のマリエルに会うのも、これが最後だろう。  よし、気持ちを切り替えたところで、城の出口を目指そう。 「……ん?」  そんな時、何か困っている人が目に入る。  城の敷地内の井戸で、何か困っている女中さんだ。  どうしたんだろう?  ちょっと寄ってみることにした。 「どうしましたか?」 「いやー、この井戸の滑車が壊れてしまって、困っちゃったのさ。最近はただでさいえ水不足で困っていたのにさ……」  なるほど。  井戸の滑車の金属の部分が、壊れてしまったのか。それは大変だ。 「よかったボクが見てみますか? こう見えて鍛冶師なので」 「ああ、そうだったのかい! それなら、頼んだよ、兄ちゃん!」  よし、頼まれた。仕事にとりかかろう。  背中の背負い袋から、仕事道具を取り出す。  滑車を分解して、壊れている部分を探す。 「あっ、滑車の軸が折れていますね。良かったら、交換しておきます」  持ち歩いていたミスリル金属の針金を、仕事道具を使い加工。  滑車の軸を直して、元に戻す。 「はい、完成です。これで滑らかに動くはずです」 「おお、本当だ。ありがとね、職人さん! あっ、工賃は……」 「いえ、お金は結構です。困った時はお互い様なので」 「そうかい。悪いね。もしもアンタ、泊まる場所が無かったら、下町にある《煉瓦亭》っていう、ウチの旦那の宿を使いな。安くするように言っておくから!」 「はい、覚えておきます」  女中さんと別れて、城の外に向かう。  何か、この城の人は、みんな気が良い人ばかりだな。  前の国のギスギスした雰囲気の城内とは、月とスッポン。  とても気持ちが良くなってきた。 「ん? この柱……何か……壊れているな?」  壊れかけの柱を、城の中で発見。  ぱっと見たところ、建物中でも重要な柱に見える。 「うーん、何か気になるな。よし、こっそり直しておこう!」  仕事道具を使い、柱を簡易補強する。  昔から金属と石、土、木の扱うことは大好き。  どうしても壊れている所を見ると、直したくなる性分なのだ。 「よし、これでOk。おっと、そろそろ、街に出ないと。ハメルーンの街か……どんな所かな」  こうして新しい住処となる街へ、ボクは向かうのであった。  ◇  ◇  ◇  ――――その日の夕方、ハメルーン城で事件が起きる。 「な、なんだ⁉ この井戸の水を飲んだだけで、腕の怪我が治ったぞ⁉」 「お、オレの目の病気も治ったぞ……見える! この井戸水で洗ったら、はっきり見えるぞ!」  城の中の井戸水を飲んだ者たちに、奇跡が起きたのだ。  原因は不明。  だが最近、暗い話題しかなかったハメルーン城に、明るい笑顔が広がっていったのだ。  ――――そして城の大黒柱が補強されたことで、後にもっと凄い奇跡が起ころうとしていた。  ◇  ◇ 「ん? この街頭……壊れているのかな? なんか、気になるなー。よし、こっそり直しちゃおう」  こうして無自覚な鍛冶師が、危険な加護持ちの男が、ハメルーンの街に放たれたのであった。
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