第5話:冒険者ギルド

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第5話:冒険者ギルド

 隣国のハメルーンに到着。  国主から市民証を貰うことが出来た。  ボクは大手を振って、ハメルーンの街に繰り出す。 「おお! ここがハメルーンの街か!」  街に出て思わず感動の声を上げる。  大きな街に出たのは、実はこれが初めてのことなのだ。  辺境の里からボクは五歳の時に、ミカエル王国の城に行った。  そのまま先日までの十年間、城の地下鉱脈だけで暮らしてきた。  ミナエルの街には、一度も出かけたことはない。  街の様子も、城の展望台か眺めることしか出来なかった。  だから本格的な街の散策は、これが初めてだったのだ。 「おお、色んな店があるな! ん? でも、活気はやっぱり無い、のなか?」  今のハメルーンの街は経済制裁を受けて、市民の生活は困っている。  馬車の中から見た感じと同じ。街中には活気はない。通行人の顔もあまり明るくない。 「これもミカエル王国の王様のせいか……」  あの王様は野望が高い。大国の力を横暴に振る舞い、近隣諸国に圧力をかけている。  その悪影響が、ハメルーンの街に及んでいるのだ。 「よし。ボクにも少しは責任があるから、冒険者として街の人を助けていこう!」  改めて誓う。  あっ、そのために、まずは冒険者ギルドに行かないと。  そういえば冒険者ギルドは、どこにあるんだろう?  あっ。あの剣を持った人に、場所を聞いてみよう。 「あのー、すみません。冒険者ギルドに行きたいのですが、場所は分かりますか?」 「ん? 冒険者ギルドだと? ああ、分かるぜ。この大通りを進んだ先の広場にある」 「なるほど。ありがとうございます!」  剣を持った人に感謝。教えてもらった広場に向かう。  情報通りに冒険者ギルドの看板が出ていた。  ギルドは二階建ての石造りの建物。年期は入っていて外観は古いが、広さは結構ある。 「おお、ここが冒険者ギルドか! 本の絵と同じ感じだな!」  ミカエル王国の鉱山で働いていた時。書庫の本だけは自由に借りて読めた。  読書が好きなボクは、仕事の合間に読んでいた。  その中のお気に入りが《冒険王ハンス》という本。  実在する冒険者の自叙伝で、大陸中で剣士ハンスが活躍する冒険譚だ。  その本の中に冒険者ギルドも登場する。  というか、物語の常に中心になる場所だ。  ハンスは冒険者ギルドで色んな依頼に挑戦。  多くの仲間と出会い、色んな経験を経て、冒険王として成長していくのだ。 「ふう……冒険者ギルド……か」  そんな夢物語の世界の冒険者ギルドが、今実際に目の前にある。  思わず感慨深くなってしまう。 「よし、いくか!」  勇気を出してギルド内に入っていく。  中は薄暗い雰囲気。  目が慣れてきたので観察する。  入口の正面にカウンターがあって、受付のお姉さんが座っている。  横の壁には掲示板があり、色んな依頼が張られている。  奥には椅子とテーブルが並んでいる待機所。  冒険者らしき人たちがいた。  おお、冒険譚と同じ雰囲気だ。  たしか、受付に行けばいんだよな。  受付のお姉さんに、冒険者になりたいです、と言えば説明をしてくれるはずだ。  よし、いこう。 「あのー、お姉さん。ちょっと、よろしいですか」 「あっ、いらっしゃいませ! もしかしたら仕事の依頼ですか? それなら、こちらの用紙に依頼内容を記入してください。あっ、もしも字が書けないのでしたら、口頭でも結構です」  なんか勘違いされてしまった。  きっとボクが鍛冶職人の格好をしているから、依頼人だと勘違いしているのだろう。  説明をしないと。 「あのー、実はボクは冒険者志望なんです。だから申請をしたいと思います」 「えっ⁉ 冒険者志望者……ですか⁉」  受付のお姉さんはビックリする。  そしてボクの全身を上から下まで確認。何か苦い顔になる。  どうしたんだろうか?  そんな時、後ろから誰かが来る。 「おい、今のを聞いた⁉ こいつ冒険者志望だってよ!」 「マジで⁉ どう見ても、生産職じゃん、こいつ!」 「はっはっは……たまにいるんだよな。こういう勘違い職人がよ!」  下品な笑い声を、上げているのは三人の青年。  ボクより少し歳上の冒険者たちだ。  生産職な格好なボクのことを(さげす)んでくる。 「おい、鍛冶ヤロー。そこの張り紙を、ちゃんと見てなかったのか⁉ ちゃんと準備をした者しか、冒険者登録をできねーんだぞ!」 「えっ……張り紙? あっ、本当だ……」  受付カウンターの横には張り紙があった。  内容は注意書き。  ――――『当ギルドでは専門の武装やスキルがない志望者は、冒険者の登録はできません』  そんな感じの内容だった。  ボクは興奮しすぎて、張り紙の存在に気がつかなかったのだ。  お姉さんに詳細を確認してみよう。 「ごめんね、キミ。これは決まりなの。過去に何の装備がない新人が、何人も最初の依頼で死んじゃって……だから、装備がある志望者しか、冒険者登録は出来ないのよ」 「あっ、なるほど。そういう深い事情があったんですね」  たしかに納得がいく決まりであった。  もしも武器も防具も持たない志望者たちが、いきなり子鬼(ゴブリン)討伐に行ったら、どうなるか?  結果は聞くまでもない。新人は間違いなく全滅してしまう。  それほどまでに装備は大切なのだ。 「分かりました。それなら装備を用意してきます! それなら生産職でも大丈夫ですか?」 「えっ、はい。規則的には問題ないけど……でも……」 「では行ってきます!」  情報を貰ったので、早速装備の用意に向かう。  ギルドを出ていく。 「「「ガッハッハ! あいつ、マジかよ!」」」  さっきの三人組が笑っていた、ような気がする。でも今のボクの耳は届いていない。 「武具の準備が必須か……とりあえず冒険譚にあった“武具屋”を探してみよう!」  こうしてボクは冒険者になるために、装備を買いに向かうことにした。  ――――だが武具屋で装備を買うことはできなった。 「えっ……なに、この値段の高さは?」  今まで街で買い物をしたことがない。  だから一般的な武具の値段を知らなかった。 「こ、この金属鎧は……百万ペリカ⁉」  今の全財産の十五万ペリカでは、短剣しかか買えない。  必須の防具が何も買えないのだ。  何も買えずに、武具屋を後にする。 「うーん、困ったな。どうしよう……」  店の前で絶望に陥る。  冒険者になるためには装備が必要。  だが肝心の装備を買うためのお金が、まったく足りないのだ。 「――――あっ、そうか。買えないなら、“作れば”いいのか!」  興奮しすぎて、自分が元鍛冶師なことを忘れていた。  必要な材料は“持ち歩いて”いる。あと鍛冶道具もあった。  後は、どこかの工房の端を借りることが出来たら、自分の武具は作れるのだ。 「よし。とりあえず職人街に行ってみよう!」  こうして規格外の鍛冶師は、ハメルーンの職人街へと向かうのであった。
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