第6話:職人街

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第6話:職人街

 ハメルーンで冒険者になるためには、装備が必須。  だが装備を買うためのお金が、まったく足りない。 「買えないなら、“作れば”いいのか!」  ナイスアイデアが浮かんだ。  即座に実行に移す。道を聞きながら、ボクは職人街にやってきた。 「おっ……ここが職人街か」  職人街は独特の雰囲気だった。  作業音や金属音が、至る所から聞こえてくる。  各工房の煙突から煙が立ち上り、色んな香りが鼻を刺激してきた。 「うん。やっぱり、この感じは、最高だな!」  今は冒険者を志しているが、ボクは根っからの職人肌。  普通の市民が嫌がるような、こうした職人街の雰囲気が何より大好きなのだ。 「えーと、鍛冶工房も、けっこう沢山あるな」  建ち並ぶ工房に、鍛冶専門の工房はけっこうある。  煙突の煙の色を見れば、だいたい分かるのだ。 「さて、どこの工房にお願いしようかな? よし、“聞いて”みよう!」  目を閉じて耳を澄ます。  職人街の色んな工房の作業音が、耳に入ってくる。  意識を集中。その中で“鍛冶工房”だけの音だけを選出。  更に鍛冶工房の中でも、作業音を聞き比べていく。 (おっ、この音は? うん、ここの工房にしよう!)  鍛冶工房の中に、ボク好みの作業音があった。  目を開けて、そっちの地区に向かう。 「あった、ここか。ん? 看板も何もないけど、本当に鍛冶工房かな?」  たどり着いた場所は、職人街でも一番辺ぴな地区。  更に工房はひときわボロイ建物。  作業音さえ聞き逃したら、幽霊工房に思えるほどボロい。 「工房の端を借りられるか、聞いてみよう。おじゃまします!」  とりあえず挨拶をして、中に入っていく。  入り口の周囲は薄暗い。  細長い建物なのであろう。  作業の音は、更に奥から聞こえてくる。 「失礼します! ボクはハルクと申します! 誰かいますか?」  不審者と思われないように、名乗りながら奥に進んでいく。  かなり縦長の工房だ。  途中には誰も使っていない作業場がある。  もしかしたら昔は大きな鍛冶工房だったのかな?  長い間、使っていない感じだ。でも手入れはちゃんとされている。 「あっ、人がいた!」  奥に進んでいくと、人の気配があった。  金属音を立てならが、誰かが作業をしているのだ。  雰囲気的に、この人が工房の主なのであろう。 「ん⁉ 誰じゃ⁉ 勝手に入ってきて⁉ 盗むモノは、何にもないぞ!」  声はすれども姿は、まだ見えない。  背が小さい人なのだろう。  とりあえず自己紹介をして、不審者じゃないことを説明しないと。 「いきなりすみません! ボクはハルクと申します! 良かったら端でもいいので、工房を貸してくれませんか? 実は冒険者になるために武具が必要で……って、えっ⁉ ドワーフの人⁉」  工房の人が立ち上がって、思わず声を上げてしまう。  作業していたのはドワーフ族だったのだ。 (ドワーフ族……初めて見たな……)  ドワーフ族は珍しい少数種族。大陸でもそれほど数は少ない。  だが彼らは各国で大事にされている。  何故ならドワーフ族は生まれながらにして、手先が器用な種族。《鉄と火の神》に愛された天性の職人族なのだ。  彼らが作った製品は、高値で取引され愛好家も多い。  多くの者は優れた鍛冶職人や鉱師として、大陸各地の要職に就いている。  普通はこんな小さな街の、しかも廃屋寸前の工房では働いていないのだ。  何か訳ありなのかな? 「ん? オヌシ、その恰好は……客でも賊でもなく、鍛冶職人なのか?」 「あっ、はい、そうです。引っ越してきたばかり今は無職ですが」  今のボクは職人風の格好をしているが、鍛冶道具はしまっている。  ドワーフ職人はひと目で、同業者だと見抜いた。かなりの眼力の持ち主だ。 「悪いがワシは今、弟子は取ってないぞ! 帰れ!」  でも話は聞いていなかったのだろう。また勘違いしている。 「いえ、弟子入りではなくて、作業場を借りたいんです。あちらの使ってない場所でもいいので? まだ使えますよね、あの感じだと?」 「はぁ⁉ いきなり来て、工房を貸せだと⁉ オヌシは常識というものを知らんのか⁉ しかも何故、ワシの所に来たのじゃ⁉」  たしかに言っていることは正しい。  普通はいきなり『工房を貸してください!』なんて来ない。  ボクは城の奥に十年間もいたから、社会的な常識が欠けていたのだ。 「す、すみませんでした。実が職人街の入口で、ここの音が好みだったので、つい来ちゃいました」 「職人街の入り口……じゃと⁉ あんな遠い場所から、ワシの作業音だけを聞き分けてきたのか、オヌシは⁉」  ドワーフ職人の表情が変わる。  目を見開きボクの顔を凝視してきた。迫力があって、すごく怖い形相だ。 「あっ、はい、そうです。鉄を叩く音が、ボクの好みでした。あと、あの切り返すタイミングが独特で、すごく好きです」 「なっ……ワ、ワシの秘伝の切り返しを……聞き分けていた、じゃと⁉」  更に表情が変わる。すごくビックリしていた。  何かマズイことを言ってしまったかな。  ここは素直に謝って、立ち去った方が良さそうだ。 「あのー、やっぱり失礼しました。ボクは……」 「よし、分かった! 工房は貸してやろう!」 「えっ⁉ 本当ですか⁉」  まさかのOKの返事。思わず聞き返してしまう。  流れ的に絶対、怒られると思っていたのに。 「ああ。人族と違ってドワーフ族は嘘をつかん! ただしテストに合格してからじゃ!」 「えっ、テスト……ですか?」 「これと同じ物をくれたら合格。工房をいくらでも貸してやる!」  冒険者になるためには、武具が必須。 「これと同じ加工を……自信はないけど、やってみます!」  こうして頑固なドワーフ族の職人の出したテストに、 ボクは挑むのであった。  でも、大丈夫かな……こんな難しそうな複製は。
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