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第7話:ドワーフ職人
冒険者になるために装備が必須で、お金が無いから工房を借りにきた。
「これと同じ物をくれたら合格。工房をいくらでも貸してやる!」
「これと同じ加工を……自信はないけど、やってみます!」
頑固そうなドワーフ職人さんに、課題を出された。
手渡された金属製の置物を、ボクが複製すればいいのだ。
「うーん、これは……」
一見すると普通の品。
だが、かなり複雑な加工がされた物だった。
何重にも“引っかけ”の場所がある。
色んな機能が、随所に隠されているのだ。
「よし、だいたい分かったぞ。でも、この部分の作り方だけが、どうしても分からないな……あっ、そうだ。“聞いて”みよう!」
困った時の金属頼み。
課題の置物を、ボクは優しく撫でる。
「金属さん、金属さん、教えてちょうだい。どうすればいいのかな?」
「――――なっ⁉」
ドワーフ職人さんがドン引きしている。
その気持ちは分かる。何しろいきなり金属に話しかけるのだ。
でもボクは集中しているから気にしない。
「ふむふむ。なるほど、そういうことか! ありがとう! よし、作るぞ!」
秘密の部分の作り方が、なんとか分かった。
自分の鍛冶道具を出して、ボクは作業を開始する。
――――『なっ……あの鍛冶道具は⁉』ってドワーフ職人さんが絶句しているけど、ボクは集中しているから聞こえない。
カンカンカン!
――――『あ、あの加工技術は⁉』ってドワーフ職人さんが目を丸くしているけど、ボクは集中しているから目に入らない。
「よし、出来た!」
何とか複製することに成功した。
形は少し違うけど、機能は同じ。
これで大丈夫かな。確認をしてもらおう。
どうでしょうか、ドワーフ職人さん?
「…………」
だが答えは無かった。
ボクの顔を見つめながら、ドワーフ職人さんは真剣な表情をしている。
やっぱり形が微妙に違うから、不合格なのかな。
「小僧、名は?」
「えっ、ハルクといいます。さっきも言いましたが」
「鍛冶の技術を、誰から学んだ? 師匠は誰じゃ?」
「師匠はいません。五歳の時から、自己流でやっていました。しいて言えば金属と岩と火に教えてもらってきました」
そうか……と言って、ドワーフ職人は目を閉じる。
かなり眉間にしわを寄せていた。
この様子だと、テストは失敗したのだろう。
ボクは自分の鍛冶道具を、まとめる準備をする。
「今日から自由に使っていいぞ、ハルク」
「えっ? 何をですか?」
「この工房の全ての設備じゃ」
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます!」
何と許可をもらった。自由に工房を使ってもいい、と。
つまり自分用の武具を、作ることが出来るのだ。
冒険者に一歩近づいた。まるで夢のようだ。
「あっ。そういえばドワーフ職人さん……」
「ワシの名はドルトンじゃ」
「ドルトンさん。そういえばボクの作った品は、少し形が違いましたが、大丈夫だったんですか?」
「ああ、そうじゃな。だがオヌシの作る品には、“愛”があった。だから合格じゃ」
「愛……ですか? よく分かりませんが、ありがとうございます!」
ずっと地下鉱脈で暮らしてきたので、“愛”はよく分からない。
とりあえず精一杯の感謝をする。
「だが自己流すぎて、未熟な部分もあるのは確かじゃ! そのクセ、異様なほどに魅せる仕事内容もある。まったく訳の分からん、小僧じゃ、オヌシは!」
「あっはっはっは……面目ないです」
褒められているのか、怒られているのか、よく分からない。笑って誤魔化しておく。
「あっ、そういえばドルトンさん。この工房は他に職人さんはいなんですか? こんなに広いのに?」
気になっていたことを訊ねる。
途中の作業場の規模だと、少なくとも十人以上の職人が、働いていた気配がある。
だが最近は誰も使った形跡がないのだ。
「ふん。根性がないから全員、クビにしてやったんじゃ!」
「あっ……そうだったんですか。変なことを聞いて、すみません」
ドルトンさんは、かなり頑固で偏屈そう。
もしかしたら弟子の人たちも、付いていけなかったのかもしれない。
「ふん。それじゃワシは先に、家に帰るぞ。酒を飲む時間になったからな」
「えっ、酒をですか? まだ、四時くらいですが?」
「ドワーフ職人にとって、酒は命の洗濯。洗濯は四時からしても、変じゃないだろうが!」
なんかよく分からない理論。
ドワーフ族はお酒が好きだから、独特の風習があるのだろう。あまり突っ込まないでおく。
「あっ、でも、ボクはどうすれば? もう少し作業をしたんですが」
「鍛冶仕事は日没まで可能じゃ。残るなら勝手にしておけ。あと、帰る前に、ちゃんと綺麗に片付けておけ」
「はい、分かりました! ありがたく使わせてもらいます!」
居残りの許可をもらった。
ドルトンさんが帰宅した後、一人で工房に残る。
「よし、自分用の武具を作ろう! あっ、でも……どんな武具を作ればいんだ?」
作ろうと思って、腕を止める。
頭の中でイメージが定まらないのだ。
「そういえば自分用の武具は、一度も作ったことがないからな……」
王国の人の武具は何百個も、何千個も作ってきた。
だから騎士兵士の武具のイメージは、すぐに頭に浮かぶ。
でも冒険者の武具……特に自分用の武具のイメージが、まったく想像ができない。
ボクは未熟だからイメージが浮かばないと、作品を作れないだの。
「うーん、自分用は保留にしておこう。明日にでもドルトンさんに相談して、それから決めよう」
ドルトンさんは、かなり腕利きの鍛冶職人。
きっと冒険者の武具を作ったこともあるのであろう。
コツを教えてもらってから作っても、遅くはないはずだ。冒険者ギルドは逃げないからね。
「それじゃ、今日はどうしよう? あっ、そうだ。工房を綺麗にしよう。ドルトンさんも言われていたし」
時間が余ったので、工房の整美をすることにした。
掃除をしつつ、荷物の片付けをしていく。
「うーん? あと建物も“少し”、綺麗に直したいな」
工房の道具は立派。
でも建物の年季が、かなり入っている。
柱も傾いて、屋根にも穴が開いていた。
「よし、鉱脈から“持ってきた”材料で、少しだけ綺麗にするか!」
ちょっとくらいの修理なら、ドルトンさんにバレないだろう。
ボクは工房を“綺麗にする作業”をしていくのであった。
◇
翌朝になる。
日の出と共にドワーフ職人の鍛冶職人ドルトンは、自分の工房に出勤する。
頑固な彼の毎日の生活のスタイルだった。
「ん? おかしいぞ……?」
だが今朝はおかしかった。
自分の工房の場所に到着しても、自分の工房が見つからないのだ。
「ワシの工房がないぞ……ん? いや、あった⁉」
見つからなかったのではない。
先ほどから目の前にあった。
だが光が屈折しすぎて、目視することが出来なかったのだ。
「な、なんじゃ、この立派な工房は⁉」
ドルトンが目にしたのは、虹色に輝く建物。
“総ミスリル金属”でリフォームされた、要塞のような工房だった。
「あっ、ドルトンさん、おはようございます!」
「お、おい、ハルク……まさか、これはオヌシが……?」
「あっ、バレちゃいましたか。さすがドルトンさんの目利きですね。ちょっとだけ頑張っちゃいました」
「――――っ⁉」
こうしてボクは新しい街の鍛冶場で、自分の武具作りにチャレンジするのであった。
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