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第8話【閑話】ハルクを追放した愚かな国王が落ちぶれていく視点
《ハルクを追放したミカエル王国の独裁的な国王の視点》
鍛冶師ハルクを追放した直後の話。
「はっはっは! これでようやく邪魔者が消えたぞ!」
謁見の間の玉座で、ミカエル国王は高笑いを上げていた。
先代の国王……自分の父親が雇っていた邪魔な鍛冶師ハルクを、ようやく追放できたのだ。
そんな国王に向かって、一人の女騎士が進言してくる。
「ですが、陛下。本当にハルクを追放しても良かったのですか? 先代様から言われていたではないですか『鍛冶師ハルクのことを生涯大事にしろ。彼の仕事の邪魔をしてはいけない』と」
この女騎士の名はララエル。まだ若いが先代の国王にも、認められていた腕利きの騎士だ。
「はぁ? 何を言っているのじゃ、キサマ⁉ ワシがこの国の今の最高権力者なのだぞ! 口答えをするのか⁉」
「も、申し訳ございませんでした」
先代の善良な国王が病気で引退してから、このミカエル王国は変わってしまった。
息子の現国王が、独裁的な政治を敷いてきたのだ。
今の愚王を抑えることは、女騎士ララエルには出来なかった。悔しい顔で下がっていく。
そんな時、謁見の間に兵士と、とある集団がやってくる。
「陛下、お待たせしました。鍛冶師集団》を連れてきました」
「おお、来たか! よし、地下のミスリル鉱脈に行くぞ!」
ミカエル国王が招集したのは、《地虫衆》という怪しい集団。
彼らは全員が、大陸屈指の鉱夫な鍛冶師。金の為になら何でもやる集団だった。
《地虫衆》と兵士団と共に、国王は城の地下へと潜っていく。
「ぐっふっふっふ……今まではオヤジの余計な決まりのせいで、地下の鉱脈には手を出せなかったからな……」
先代のミカエル国王は十年前に、謎の少年を雇用。その者は突然、城の地下にミスリル鉱脈を発見した。
ミスリルは大陸でも貴重な金属。高い防御力の防具と、鋭い切れ味の武器を製造できる。
だが欲のない先代の王はミスリルを、悪用することはなかった。国の発展のためにだけに使ってきた。
息子である現国王が、『ミスリルの武具を量産して、隣国を侵攻して国力を増していこう!』と進言しても、聞かなったのだ。
そして地下のミスリル鉱脈の採掘場の鍵は、ハルクしか所有していなかった。
だから長い間、息子の現国王でも、つい最近まで手を出せなかった。
――――だが今は違う。
邪魔な父親は病気で引退。うるさい家臣と騎士たちは、既に左遷と追放済み。
ミスリルの武具もハルクに作らせた。
そして難癖つけて、ついにハルクも追放できたのだ。
「いよいよミスリル鉱脈を、ワシが独占できる日がきたのじゃ! ガッハッハ!」
ミスリル鉱脈を独占したら、隣国は攻め放題。最終的には大陸統一も可能だろう。
それほどまでにミスリルは危険な金属なのだ。
「陛下、鍵が開きました」
「おう、いくぞ!」
ハルクから没収した鍵で、鉱脈への扉が開いた。
《地虫衆》と護衛兵と共に、ミカエル国王は“夢のミスリル鉱脈”へと足を踏み入れていく。
――――だが“夢のミスリル鉱脈”ではなかった。“地獄のミスリル鉱脈”だったのだ。
「な、な、なんだ⁉ か、身体が異様に重いぞ……もう、一歩も動けない……」
「し、し、しかも、この断崖は何だ⁉ これが坑道なのか⁉」
「く、苦しい……息が、できない……」
「こ、これは魔素が異常濃度だぞ! 急いで、撤退しろ! ここままでは全滅だぁああ!」
ミスリス鉱脈の浅い部分ですら、異常な場所だった。
地上の十倍以上の超重力!
魔獣ですら昏倒する、超濃度の魔素の密度!
行く手を阻む断崖と悪路の連続!
しかも肝心のミスリル鉱脈に降りていくと、比例してそれらの環境が劣悪になっていくのだ!
「これは、無理だ。諦めろ」
大陸最高峰の《地虫衆》ですら、お手上げ状態。
こんな場所に潜ってミスリル金属発掘するのは、生きている者には無理だと、国王に説明してきた。
「な、な、何を言っておるじゃ⁉ 現にハルクというガキは、五歳の頃から一人で採掘していたのだぞ! しかも大量のミスリルを⁉ それなのになぜ、お前たちは出来ないのだ⁉」
説明を聞いて、ミカエル国王は顔を真っ赤にする。
使えない《地虫衆》を罵倒する。
「そのハルクという者、普通ではない。国の宝として大事にしておくべき、だった。それではオレたちは帰る」
そう言い残して、《地虫衆》はミカエル王国を去っていく。
彼らは金に汚い集団。だが命の方が大事なのだ。
残されたのは体調不良のミカエル兵士団と、顔を真っ赤にしたままの国王。
「く、くそ! どういうことなのじゃ!」
ミカエル国王はミスリル鉱脈を独占することに失敗。
その後も何度も挑戦するが、ミスリル鉱脈の浅い部分すら突破できなかった。
「ま、まさか……あのハルクは特別な鍛冶師だったのか⁉ い、いや、そんな訳がないだろう!」
バタン!
ミカエル国王は魔素酔いと、興奮し過ぎで倒れてしまう。
しばら寝たきりになってしまう。
――――だが当人は知らなかった。その後に、更に不幸が訪れることを!
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