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「すごいね!関家君、最後まで弾けたよ」
「ミスだらけですみません」
「初見でここまで弾けたら十分だよ」
「望未先生に褒められるとなんかうまくなった気がする」
照れた顔で関家君は言った。
「そうだ!一緒に弾いてみようか。私が左手を担当するから関家君は右手ね?」
「いいんですか?」
「うん。じゃあ、ゆっくりね」
たどたどしい音だけど、両手で奏でると曲になっていた。
関家君は嬉しそうな顔でさっきよりも一音ずつ気を付けながら弾いていた。
曲を崩さぬように。
ゆっくりと最後まで弾く。
「桜の花がふわっと散っていくかんじに似てますね」
「ゆっくりな曲だからね。だからその分、難しいの」
「……ゆっくりでいいと思います」
「え?」
「ゆっくりは俺、嫌いじゃないんで」
「そうだね……」
関家君は真剣な目をしていた。
ゆっくりでいい―――私の恋はそんな穏やかな恋なのだろうか。
「先生のトロイメライを聴きたいです。聴かせてもらってもいいですか」
「うん、いいよ。一度、通しで聴いた方が感覚がつかめるよね」
桜の花のふわりとしたかんじを見ようと窓の方を一瞬だけ見た。
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