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あの日のことを遥希くんは気にしていないようだったので、ボクはホッとしてベッドに再び沈み込んだ。それは良かった。それは良かったのだけど。
ボクが気まずくなった理由はそこにはない。そしてその理由を言うのには勇気がいる。
「ああ、遥希くんっ」
「うん」
「……すっ……」
遥希くんのことを変に意識してしまって、一緒にいると緊張してしまって、辛くなってしまった。そんなこと言えるわけもなく、ボクは口ごもる。
「す?」
「すっ、すっ……」
もし、好き、と気持ちを伝えたらどうなるのだろう。遥希くんはどんな反応をするだろうか。
「俺も岡崎が好きだ」
と、言ってくれたら嬉しいな。想像するだけで顔がにやけてしまう。だけど、
「ごめん、岡崎のこと、そういう風には見れない」
って言われたら。
立ち直れないかもしれない――
「す……」
実際に会ったことはないけれど、男性同士で恋人になる人がいることは知っている。もっとずっと昔に比べると、同性同士の恋愛に対する偏見や差別が少なくなっていることも知ってはいる。だけど、それでもまだ、同性同士の恋愛に対して嫌悪感を持つ人たちが根強くいるのもまた事実だ。遥希くんがそういう人だとは思えないけれど、もしそうだったら?
「……」
「なんだよ、言ってくれよ」
もし好きだと伝えて、完全に嫌われてしまったら?
「すっ……ステーキ食べに行こ!」
苦し紛れの一言だったが、遥希くんは快くボクの誘いを受け入れてくれた。
これすなわちデート!!
ではないけれど、ボクは気持ちが華やぐのを抑えきれない。遥希くんと一緒にごはんを食べに行けるなんて、もう二度とそんなことはできないかもしれないと思っていたのだから。
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