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すぐには寝られないと言っていた遥希くんは、さっさと眠りについてしまった。ボクはその寝顔をすぐ横から見ている。遥希くんの顔をこんな至近距離で見たのはこれが初めてだ。遥希くんのことは、整った顔をしているという印象は持っていたけど、こうやってじっくり眺めていると、すごくきれいで、見飽きない。見る角度によって光り方を変える宝石のように、その色を変えるプリズムのようにキラキラして、ボクを惹きつけた。もはや吸い寄せられる。
遥希くんに、触れたい。
湧き上がる気持ちを抑えようとする理性はそこにはなく、気づくとボクは自分の頬を、遥希くんの頬に擦り寄せていた。
暖かくて、柔らかくて、心地好い肌の感触に、ボクはうっとりと目を閉じる。
石鹸のいい香りが鼻をかすめていく。うとうとと夢見心地になり、思わずその香りの元である遥希くんの首に鼻を埋めてしまった。
「ふふふ」
ボクの髪に、温かい風が当たる。
パチリ、とボクは目を開いた。
顔を上げると、目と鼻の先にある黒い瞳がジッとこちらを見つめている。
「うわあっ」
ボクは遥希くんから身体を離した。遥希くんは余裕のある笑みをボクに投げつけてくる。
「ご、ごめんなさい」
「何が?」
そう言って、遥希くんは長くて細い指でボクの髪を梳き、ボクの左耳にかけた。そして、耳朶を優しい手つきでそっと撫でる。たったそれだけの動作なのに、ボクは全身に電気が走ったようにビリビリと細かく震えた。
「……っ」
「何で謝ってるの、岡崎」
「あ……だ、だって」
遥希くんの手がそのままボクの頬を撫で、顎の輪郭に触れ、喉仏をスッとなぞる。その動きは止まらず、どんどん下の方へ行くのだけど。
「うわああっ」
ボクはとんでもないことに気づく。遥希くんの手がボクの鎖骨を通り過ぎたとき、その手はボクの胸の間を直接触れていったのだ。つまり、ボクは上の服を着ていない。
「ちょっ、まっ、はっ、はるっ、」
ボクは両腕を突き出し、遥希くんの手から逃れようとした。その突き出した手が触れたのは、温かい肌だった。
「えっ、えっ?!」
なんと遥希くんも上の服を着ていない。いや、上だけじゃない。遥希くんは下も何も身につけていなかった。それに気づいたボクの驚きは筆舌に尽くし難い。
「ぅあっ、えっ? な、なんで裸??」
「何言ってんだよ」
ボクが遥希くんとしっかりと距離をとったというのに、遥希くんはボクの方に近づいてきて、なんとあろうことか、ボクを抱きしめてきた。もはや声すら出ない。
「お前も裸じゃないか」
ちょっと何言ってるかわからない。頭の中が真っ白になり、視界が霞んでいく。あ、ボク、気絶するかもしれない。いや、気絶する人って気絶する前に気絶するってわかるものなのかな。そんなどうでもいいことを考えていたら、遥希くんは追い討ちをかけるように、ボクの耳に唇を寄せてきた。
「岡崎」
ゼロ距離で聞く遥希くんの声は低くて、聞き心地が良くて、身体が甘く痺れた。
「足、開けよ」
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