1

22/37
前へ
/71ページ
次へ
「!!!!!!!!!!」  視界に広がる天井は見知ったボクの部屋の天井だった。さっきまで遥希くんの家にいたはずなのに、と混乱するが、徐々に頭の中で靄っていたものが晴れていき、さっきのは夢だったことに気づく。妙にリアルな夢だった。本当に触れられたみたいで、その感覚がまだ自分の肌に残っているような気がする。時間が経てば経つほど、その感覚は消えていく。それが少し寂しくて、身体を丸めてその感覚をボクの中に留めようとした。 「?!」  だけど、そのせいで遥希くんの肌の感触は吹っ飛び、代わりに不快な感覚が一気に濃くなった。  下着が濡れているのだ。  十九にもなって、お漏らしをしてしまった。と最初は思った。まだ外は暗く、みんな寝ているだろうから、この隙に下着を洗ってしまおうとそそくさと洗面所へ向う。そこで濡らしてしまった下着を見て、ボクは固まった。下着には白っぽい粘り気のあるものがべっとりと付いていた。  これは。もしかして。いわゆる。  夢精というやつではないだろうか。  ボクは十九歳の今の今まで、夢精したことがなかった。それどころか、ひとりでそういう楽しみにふけることもなかった。好きな人ができたことはなかったし、大人の読み物や映像作品にも興味はなかった。それよりは本を読むことが何より楽しかった。もちろん、物語の中で繰り広げられる恋愛模様にドキドキすることはあったし、憧れることもあった。だけど、それが自分の身の上に訪れることはなかったので、ボクにはそういうことは一生ないんだろうなと思っていた。  それがまさか、突然やって来るとは。  ボクの身体にも、そういう大人の反応がある、ということは。  ボク、大人になったんだ!  下着を洗い、部屋へ戻るとボクはその下着を持って、本棚に本以外のものを置くために作ったスペースの前で正座した。そこには、写真立ての中で満面の笑みを浮かべるじっちゃがいる。  じっちゃ、ボク、大人になったよ!  じっちゃに報告をすると、写真の中のじっちゃが喜んでくれているような気がした。  
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加