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 楽しみすぎていても立ってもいられず、待ち合わせ場所に一時間も前に着いてしまった。と、思ったら、なんとそこには岡崎がすでにいるではないか。  岡崎も楽しみにしてくれてたのかな?  そんなことを考えて思わず顔がにやけてしまう。俺は顔にぐっと力を入れて、できうる限りのイケメンの顔を取り繕いながら、しかしながら実際は鼻の穴を膨らませながら岡崎のもとへと歩いて行った。  岡崎は割と遠いところから俺に気づき、パッと顔を輝かせて手を振ってくれた、かわいい、と思った次の瞬間、岡崎の表情は凍りついた。何事かと不安になって歩く足が遅くなってしまう。が、そんな俺とは裏腹に、岡崎は俺に向かって走り寄ってきた。  そして、目の前に来るなり、 「こんなに痩せて!」 と、叫んだ。  そういえば、岡崎のことを想い続けて約一ヶ月、あまりごはんを食べず、バイトに勤しんでいたせいか五キロは痩せている。岡崎は頰のこけた俺の顔を両手でむんずと挟んだ。俺の心がきゃあと悲鳴を上げる。 「なに? 病気? 体調悪いの? 病院行こうか? どうしよう? 救急車呼ぶ?」  なんと岡崎はちょっと泣きそうになっている。俺のことを心配してくれているのがその表情から、両手の体温から、伝わってくる。嬉しくて思わずこちらも泣きそうになってしまうのを、グッとこらえた。 「大丈夫。体調はいいし病気でもない」 「ホント? 無理してない?」 「うん。最近バイト詰めすぎてたから」 「ごはん、ちゃんと食べてる?」 「うん。まぁ、割と少食ではあったけど」 「つまり食べてないんだね!!」  岡崎は俺の顔をつかんだまま、唸り始めた。頬が両側からぎゅっと押されて俺はさぞかし変な顔になっているだろう。嬉しいような、恥ずかしいような気持ちで俺はそっと岡崎の手を握り、顔から離した。すると岡崎は、そのまま俺の右手をぎゅっと握って、 「ついてきて!」 と、言って歩き出した。ついてきても何も、岡崎が俺の手を握って引っ張るものだから、俺はただただ引きずられるようにして岡崎の後を歩くことになる。つまり、  手を繋いで歩いている!  恥ずかしいという気持ちがないと言えば嘘だが、嫌な気持ちは一切なく、俺はされるがまま、岡崎と手を繋いで歩いていた。心臓が跳ねて跳ねて苦しいが、それよりなにより、今までずっと離れていた岡崎の身体の一部に触れていることが嬉しかった。しかも岡崎の方から握ってくれている。頬がサッと赤くなるのを感じ、周りの人の視線も感じたが、俺はどうしても岡崎の手を振り払うようなことはできなかった。
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