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 そして連れられてきたのが、このそば処である。あまり食べていないのにガツンとステーキを食べるとお腹によくないから、ということで軽めのそばに変更となった。実際、それはありがたかった。普段の俺ならステーキどんと来いだが、今は優しい味のものを軽く食べたい。 「おそばおいしいね、うふふ」 「うまいな、ふふふ」  そのおいしさのため、やはりすぐに食べ尽くしてしまった。お汁も一滴残らず飲み干した。ああ、ごちそうさまでした。  さて、このまま解散、なんてことにはしたくない。チラリと岡崎の方を見ると、岡崎は鼻歌まじりでスキップでもしそうなくらいご機嫌だった。そば処を出てしばらく歩くと、再び岡崎が俺の手を握ってきた。顔に身体中の血液が集まっていくような気がした。 「デザート、食べるっ?」  はい、食べます。  声にならず、俺は黙って肯いた。  うふっ、と岡崎は笑うと、俺の手を握ったまま歩き出した。手を繋いで歩く、再びである。嬉し恥ずかし。ぎゅっと握り返すのは恥ずかしいので軽く握り返す。俺の真横で岡崎が笑いながら何やら楽しそうに話している。悪いけど話している内容が全然頭に入ってこない。  オレハ……ユメヲ……ミテイルノカ……?  大好きな人と手を繋いで歩いている。  大好きな人が俺の真横で笑っている。  最早映画のエンディングみたいな光景。  THE END って文字がどこか宙に浮いてないか?  一ヶ月もの間、岡崎から隔離されてきた反動でこのようなことになっているのだろうか。それにしたって岡崎、何でこんなに俺と会って嬉しそうなの? 俺の方が絶対嬉しいはずなんだ、だって好きなんだから。好き過ぎて、会えない時間が募るほど、心の中に空いた穴がどんどん大きくなって、それに比例して岡崎の存在がどんどん大きくなって、本当に本当に本当に苦しかったんだから。それが、今のこの状況は言うならば岡崎のオーバードーズじゃないか。めちゃくちゃ岡崎じゃん。岡崎でいっぱいじゃん。ちょっと、受け止めきれない、ちょっと、ちょっと待ってほしい。  そんな俺の気持ちなぞ知る由もなく、岡崎は夏の陽射しを浴びてキラキラと輝いている。くっ、眩しい……! 軽い眩暈に襲われながら、俺は岡崎と手を繋いだまま、岡崎に連れられて飴色の扉の喫茶店へと入っていった。
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