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この説を証明する事象は、今日だけですでに複数確認されている。順番に見ていくとしよう。
① 待ち合わせ時間より一時間以上早く待ち合わせ場所に着いている。
② 遠いところにいる俺に気づく。
③ 痩せこけた俺を見て異常に心配する。
④ 痩せこけた俺を労って美味いそば処に連れて行ってくれる。ステーキが食べたいはずなのに。
⑤ 手を繋いでくる。
⑥ 話している間中、ずっと楽しそう。
⑦ 今現在、テーブルの下で俺の足を両足で挟み込んでロックしている。
これらの事象から鑑みるに、俺に好意を寄せていることはまあまず間違いなかろう。それは非常に喜ばしいことだ。嬉しすぎて岡崎を抱きしめたい。じゃなくて、問題は、その好意の性質である。
友だちが好き、の好意なのか。
恋愛としての好意なのか。
岡崎の場合、友だちに対してもスキンシップは結構取るタイプだと思う。学校で村上の肩の上にあごを乗せてるのを見たことがある。それはいやらしい感じはなく、例えるならば犬がじゃれついているような雰囲気だ。岡崎は誰にでも、仲の良い人にはその愛らしい犬的オーラを存分に発揮し、相手の気分を害さない程度にスキンシップを取る。
それでいくと、手を繋いだり、足を挟み込んだり、というのは人によっては拒絶反応の出やすいスキンシップである、と思う。それを堂々とやってくるということは、友だち以上の何かを、俺に感じてくれているのではないだろうか。そんな期待感が否応なしに高まる。
しかし、俺が知らないだけで、友だち全員に同じ振る舞いをしている可能性もゼロではない、と考えた方がいいだろう。あまりにも自分に都合の良い推測は危険だ。期待が高まり、持ち上げられた分、そこから落ちた時の傷は大きい。
「岡崎さぁ」
「うん、何?」
確認しておく必要がある。この説の裏付けをするのだ。そうすることによって、こちらの出方も変わってくるというものだ。
「今日は、なんというか、その、て……手を繋いだりとか、足……挟んだりとか、スキンシップ激し目だけど、ほ、他の人にも同じことしてんの?」
勇気を出して訊いてみた。勇気は出したが怖くて顔を見れない。俺はテーブルに視線を落としたままだったが、
「ううん、しないよ」
と、速攻で返事が来た。え、と顔を上げると、
「遥希くんだからしてる」
と、岡崎はそこまで淀みなくスラスラ話した。なのに、その後、急に口が重くなり、頬が薄っすら桃色に染まっていった。
「遥希くんだからしてる……あ……その……えっと、だから……他の人にはしたことないです」
そう言って、岡崎はもじもじと視線を落とし、テーブルの下の足ロックをゆっくりと解除した。
この反応よ。
事象⑧が追加されたといって差し支えなかろうて。
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