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          ✳︎  ………………。  ああああああああああああああああ!!!  またやってしまったあああああああ!!!  遥希くんと久しぶりに会う。しかもデート、じゃなくてごはん会。一緒にごはんを食べる約束。そんな素敵な今日を待ちわびて待ちわびて待ちわびた結果がコレとは。  ああああああああああああああああ!!!  嬉し過ぎて、遥希くんと会えたのが嬉し過ぎて、また舞い上がってしまった。だって、大好きな遥希くんが目の前にいるというのにこの嬉しさを抑えることなんて、できるわけがない。  だがしかしいいいいいいいいいいい!!!  触り過ぎたあああああああああああ!!! 「ごめん、ごめんね」  蚊の鳴くような声でぼそりと謝ると、ボクは燃え上がるような顔を冷やすため、レモンが浸された氷水を一気に飲み干した。冷たい感触が喉をただただ通り過ぎていく。  と、そこへ喫茶店のマスターがチーズケーキを持ってきてくれた。ボクたちは気まずい雰囲気の中、フォークを手に取った。一口食べると、なんと味がしない。バイト先の先輩に教えてもらったお気に入りの喫茶店で、初めてここのチーズケーキを食べたときの感動は忘れられない。それくらい美味しいチーズケーキなのに、今のボクの舌は、その美味しさを感じることができない。氷水を一気飲みして、舌が冷えて麻痺してしまったのか? いやいやそんなことあり得ない。  遥希くんもチーズケーキを口に運んでいるけど、もそもそと食べていてあんまり美味しそうには見えない。さっきのにしんそばは見ていて清々しくなるような食べっぷりだったというのに。遥希くんも味がわからないのかな? だとすると、チーズケーキ自体に問題があるのかもしれない。そのうちに紅茶も運ばれてきて、そちらにも口をつけたけど、ただのお湯を飲んでいるかのような味気のなさ。  さっきから遥希くんもボクも、一言も話していない。喫茶店へ来るまでは楽しく話していたというのに。触り過ぎただけでなく、遥希くんのことが好きだと、遠回しに言っているようなことも言ってしまっている。ああ、言ってしまっている! さすがに気づかれてしまったのではとハラハラしてしまう。  もし遥希くんが気づいていたら。男から好きって思われて、嫌なんじゃないかな。気持ち悪いって思われていたらどうしよう。  何か話さなくちゃ、挽回しなくちゃと思うけれども、何を話すのが正解なのかわからない。焦れば焦るほど頭の中で言葉が絡まってしまって、結局口から出てくることはない。絡まったままの言葉たちは胸の方へと降りてきて、募り、モヤモヤとした気持ちがどんどん高まっていく。  せっかくのデート、もとい、ごはん会が無駄になっていくようで悲しい。ボクは歯を食いしばりながら味のしないチーズケーキを飲み込んだ。
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