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          ✳︎  もじもじしている岡崎の顔は桃色を通り越して真っ赤である。  これは! もう! 俺のこと好き、で確定してもよかろうか!!  しかしこういうとき、「お前、俺のこと好きなんだろ」なんて言うのは紳士的ではなかろう。岡崎は思わずいじめたくなってしまう可愛らしさがある。ちょっとからかいたくなるような、手を出してしまいたくなるような、そんな危うさをまとっているのだ。だから「お前、俺のこと好きなんだろう」などと言って、からかいたい衝動に少しくらいはうずっとしてしまう。してしまうが、岡崎の前ではカッコいい俺でいたい。紳士的ではない行動は絶対に取りたくない。  それに、俺が岡崎は俺のことが好きに違いないと思いたいがあまりに、能天気にも岡崎俺好きフィルターを出力最大にしてかけている可能性も否めない。「全然好きじゃありませんけど?」なんてあの可愛い顔で言われてしまったら、全身複雑骨折級のダメージは避けられまい。ことは重大だ。慎重に進めなければ今後しばらく動けないくらいの重傷を負うかもしれない。俺は深呼吸を繰り返す。  そんなことを考えていると、次に何を言うべきなのかがわからなくなってしまった。岡崎も何も話さないし、気まずい沈黙が俺たち二人を包み込んでいる。ここで気の利いた一言も言えない自分が情けなくなるばかりだ。思わずため息をつきたくなるが、ぐぐっとこらえた。  そんな中、チーズケーキが運ばれてきたが味がしない。岡崎のことを考えていたら胸がいっぱいで、甘いものは別腹だというのにチーズケーキが入らない。しかし、せっかく岡崎オススメのチーズケーキなのだから完食したい。悲しいかな作業のようにチーズケーキをちまちまと口に運んでいると、紅茶が湯気をたてながらやってきた。が、こちらも味がせず、湯を飲んでいるような感覚しかない。ふと岡崎の方を見やると、岡崎もあまりケーキを美味しそうに食べていないではないか。  岡崎も胸がいっぱいでケーキが入らないのではないだろうか。  これは……もしや……事象⑨!
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