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友だち。
友だち。
友だち。
頭の中でエコーする言葉、友だち。
俺は「友だち」のつむじを見ながら、味のしない紅茶をすすり、乾いてパリパリになりそうな口の中を潤した。
「いや、気持ち悪くない」
え、と岡崎は顔を上げた。
「俺も岡崎みたいな友だちができて嬉しいよ」
俺は紅茶を飲み干し、テーブルの下で岡崎の足を俺の足でトントン、と軽く叩いた。挟み込むのはさすがに恥ずかしくてできなかった。
しおれていた岡崎の表情が、花がほころぶようにふわりと和らいでいく。その顔があまりにも美しくて、胸がギュッと締めつけられた。
「そ、そう? なら良かった!」
友だちと呼ばれてこの喜びようである。確かに岡崎は俺のことが好きだろう。それは間違いない。
だが、「友だち」として、好きでいてくれているのだ。
岡崎がチーズケーキを美味しそうに食べている。俺もチーズケーキを口に運んだが、相変わらず味がわからない。
ああ。岡崎の「好き」と、俺の「好き」が同じだったらいいのに——
でも。でも、である。
岡崎の隣にいられるなら、それでもいいのではないだろうか。会えなくて、日々悶々と過ごすことになるよりは百倍マシであろう。
下手に告白して「男とは付き合えない」なんて言われて気まずくなり、会えなくなってしまう可能性は十二分にある。その危険を冒すなら、今のままでいるだけでも十分幸せなのではないのだろうか。
俺は味のしないチーズケーキを口に運び、
「うん、幸せ」
と、呟いてみた。口に出せばそれは本当になるかもしれない。友だちの岡崎と一緒にいること。それが俺の幸せであると。
「ボクも幸せだよ」
岡崎が何の罪もない柔らかい表情で俺に笑いかけてくれる。確かに幸せだ。この笑顔の横にいられるなら友だちでも十分だ。そうだ。それでいい。それでいい、今は。
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