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          ✳︎  友だち。  友だち。  友だち。  頭の中でエコーする言葉、友だち。  俺は「友だち」のつむじを見ながら、味のしない紅茶をすすり、乾いてパリパリになりそうな口の中を潤した。 「いや、気持ち悪くない」  え、と岡崎は顔を上げた。 「俺も岡崎みたいなができて嬉しいよ」  俺は紅茶を飲み干し、テーブルの下で岡崎の足を俺の足でトントン、と軽く叩いた。挟み込むのはさすがに恥ずかしくてできなかった。  しおれていた岡崎の表情が、花がほころぶようにふわりと和らいでいく。その顔があまりにも美しくて、胸がギュッと締めつけられた。 「そ、そう? なら良かった!」  友だちと呼ばれてこの喜びようである。確かに岡崎は俺のことが好きだろう。それは間違いない。  だが、「友だち」として、好きでいてくれているのだ。  岡崎がチーズケーキを美味しそうに食べている。俺もチーズケーキを口に運んだが、相変わらず味がわからない。  ああ。岡崎の「好き」と、俺の「好き」が同じだったらいいのに——  でも。でも、である。  岡崎の隣にいられるなら、それでもいいのではないだろうか。会えなくて、日々悶々と過ごすことになるよりは百倍マシであろう。  下手に告白して「男とは付き合えない」なんて言われて気まずくなり、会えなくなってしまう可能性は十二分にある。その危険を冒すなら、今のままでいるだけでも十分幸せなのではないのだろうか。  俺は味のしないチーズケーキを口に運び、 「うん、幸せ」 と、呟いてみた。口に出せばそれは本当になるかもしれない。友だちの岡崎と一緒にいること。それが俺の幸せであると。 「ボクも幸せだよ」  岡崎が何の罪もない柔らかい表情で俺に笑いかけてくれる。確かに幸せだ。この笑顔の横にいられるなら友だちでも十分だ。そうだ。それでいい。それでいい、今は。
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