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今日はなんて素敵な日だったんだろう。少し舞い上がってしまって危なかったけど、遥希くんから「幸せ」って言ってもらえて嬉しかった。
幸せって! 幸せって!
ボクも人生で一番幸せかも!!
自然と鼻歌と笑顔が湧き上がってくる。家までの道にはずっと花が咲き誇って並んでいるような気がする。なんだか目に映るものが全てキラキラ輝いて見えた。
「ただいまーっ」
家に帰ると、居間の方から「おかえり」という声が聞こえてくる。
「おかえり岡崎」
「おかえりなさい岡崎さんっ」
ボクは手洗いうがいを済ませ居間へ向かうと、シェアメイトの鉄観音さんと茉莉衣ちゃんが出迎えてくれた。ボクの顔を見るなり、鉄観音さんはニヤリと笑う。
「ほう。その顔を見たところやと、デートは大成功のようやなぁ」
「んもう、デートじゃないよ、ごはん会だよ」
「良かったですわね、岡崎さん!」
鉄観音さんがよく冷えた麦茶を出してくれた。茉莉衣ちゃんが遥希くんとボクのデート、じゃなくてごはん会の様子を聞いてきたので、今日あった素敵なこんなこと、あんなことをいろいろと話した。茉莉衣ちゃんは遥希くんとボクが楽しい時間を過ごしたことをものすごく喜んでくれた。ボクも今日のあれこれを思い出してムフフが止まらない。ボクはたくさん話して喉が渇いたので麦茶を飲む。美味しい。ぷはーっと息を吐いて、茉莉衣ちゃんとうふふと笑い合った。
黙って聞いていた鉄観音さんがうーんと唸り始め、天井を仰いだ。
「鉄観音さん、どうかなさったのですか?」
茉莉衣ちゃんは微笑みながら鉄観音さんに話しかけた。
「いや、なんか」
「なんか?」
「なんつーかさ」
ボクは麦茶を飲む。香ばしい風味が口の中に広がり、夏の暑さに火照った身体を冷ましてくれる。
「もはや付き合うとるやないか」
ブホッという音と共にボクは麦茶を盛大に噴き出した。せっかくの美味しい麦茶がもったいない。
「きゃあ岡崎さんっ!」
茉莉衣ちゃんがむせるボクの背中をさすってくれる。椅子の上に膝を立てて座っていた鉄観音さんが立ち上がり、台所からキッチンペーパーを持って来てボクが噴いた麦茶を粛々と片付けてくれた。
「そんなけイチャコラしてんのに友だちとか、あり得へんやろ」
「イチャコラ……確かにときめいてしまうほどにお二人はイチャコラされてますわね」
「ときめくかどうかは知らんけど、友だちの領域越えとるわ」
「まあ、岡崎さんは遥希さんのこと、お慕いされてますから」
「手ぇ繋いでも足挟んでも腕組んでもキスしても拒まれへんかったんやろ」
キス、という言葉が出てきて、ボクも茉莉衣ちゃんもギョッとして思わず飛び上がった。
「えっ! 遥希さんとキス、キスしたんですか岡崎さん!」
「きっ……キスはしてないよ!!」
そんなことは一言も言っていないのに何故そんな話になるんだろう、とボクは目を白黒させながら否定する。急に胸がドキドキし始める。想像してしまった。は、は、遥希くんと……
「あっ、キスはまだなんですね、残念」
茉莉衣ちゃんがとても残念そうに言う。ボクも残念だ。
「それも知らんけど、遥希も岡崎のこと好きやろ明らかに」
知らんのかい、と茉莉衣ちゃんが小さく呟いた。
「でも友だちだよ! 遥希くん、ボクみたいな友だちができて嬉しいって言ってくれたんだ」
「で、アンタはそれでええの?」
「え?」
「遥希くんと友だちのボク、でええのんかって訊いとんねん」
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