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果たして遥希くんがボクの恋人になってくれる未来なんて、あり得るのだろうか。確かにボクの中にある、遥希くんに向けられたこのピカピカ光る気持ちは友情ではない。だけど、それを受け取ってもらうには、遥希くんもそういう気持ちを持っていてくれなければいけないわけで。遥希くんにもそういう気持ちを持ってもらうには、一体どうしたらいいというのだろう。
「それは知らん」
と、言い放つのは鉄観音さん。
「知らんけど、遥希もお前のこと好きやと思うで」
何の根拠があってそんな自信満々に言えるのだろう。
「本人に直接訊いてみ? ボクのこと好きやろ、ってな」
至極当然のことのように言い放つ鉄観音さんに、茉莉衣ちゃんとボクは大きくため息をついた。
「そんなこと、なかなかできるものではありませんわ。とにかく、お話しできない状態から普通のお友だちの状態まで戻ったわけですし、それは進歩ではありませんか!」
茉莉衣ちゃんの言葉にボクは大きく肯いた。あのまま遥希くんと会えず話せず日々を過ごしていくことになっていたらと思うと切なすぎる。
「あぁん? このまま友だちで終わっても切ないやろ」
友だちで終わるのではなく、友だちのまま続いていければ、それはそれでアリだとボクは思っている。遥希くんのそばにずっといられるなら、それも一つの幸せのかたちじゃないだろうか。
「岡崎さん……切ないですわ」
「逃げとるだけやと思うけどな」
ところで、と鉄観音さんが椅子の上で片膝を立てた。
「遥希の写真とかないのん?」
茉莉衣ちゃんが身を乗り出した。
「見たいです! 岡崎さん、ありませんの?」
ボクのスマホの中に遥希くんの写真は、ある。あるけれども、二人に見せたくない。もし見せて、二人が遥希くんのことを好きになっちゃったらどうしよう、と思ってしまったからだ。
「えー。そんなイケメンなん? うち伊藤英明似やったらヤバいかもしれん」
「ワタクシは吉沢亮さん似でしたら……」
二人のタイプは遥希くんとは違うのでホッとしたものの、それでも出し渋っていると、鉄観音さんがボクの方にグイッと手を伸ばしてきた。
「LINEのアイコンで手を打とう」
それならば、とボクはLINEを起動して二人に見えるように画面を見せた。二人があっ、と素っ頓狂な声をあげる。
「あーん、自分の顔とちゃうパターンか!」
「LINEのアイコンを自分の顔に設定される方ってあまりお見かけしませんよね」
ボクは自分の顔を設定しているのだけど、少数派なのだろうか。
「ていうか誰やねんコレ、侍やんけ」
「しかも白黒ですわね……」
遥希くんはマニアックな時代劇『下町奉行、呪詛を斬る!』の大ファンで、その登場人物の保田伸允が推しだそうだ。黒川康二さんという役者さんが演じているとか。
「クロカワコウジ……名前聞いてもわからん」
「切長の目がセクシーですわね」
「岡崎とは全然違うタイプやな。岡崎はかわいい系やし」
「そうですね、岡崎さんは圧倒的ワンコ受けです」
「あー。犬にすら受けるかわいらしさってか。わかるわ。んで、遥希の見た目情報何かないのん?」
鉄観音さんがしきりに遥希くんを一度家に連れて来いと言ってきたけど、ボクはそれを丁重にお断りして自分の部屋へと戻って行った。
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