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「あ……」
岡崎がギュッと目を閉じて堪えている。
「大丈夫? やっぱやめとく?」
俺が訊くと、目を閉じたまま首を横に振る。
「ううん、まだ、もうちょっと」
そっと目を開いた岡崎の表情は苦しそうだ。すぐに目は細くなり、開いているのかいないのか、よくわからない。岡崎の緊張がものすごく伝わってくる。多分大丈夫じゃないな、と思い、俺はとめる。
「あ、とめないでよ、大丈夫だからっ」
「ダメ。こっから血が出るから」
「えっ……」
「無理することないんだから」
「やだっ」
岡崎が手を伸ばし、俺の腕をつかんだ。そして俺が握っているものを奪い取った。
「あ、やめとけよ!」
「大丈夫だってば!」
岡崎が奪い取ったそれをグッと押し込んだところで俺の方があっ、と声を上げた。
バッと飛び散る血飛沫、その後に大写しになる下町奉行のしかめ面。
横を見ると、岡崎の顔がみるみる青ざめていく。俺は岡崎からリモコンを取り返し、停止ボタンを押した。
「ちょっと横になったら? 顔色悪いよ」
うん、と肯くと岡崎は俺のベッドに倒れるようにして横になった。元々色白の岡崎だが、文字通り蒼白で心配になる。
岡崎はホラーが苦手なのだ。岡崎とは本の貸し借りをしているが、ホラー作品を貸そうとしたら怖いのは苦手だから、と言ったので以後岡崎とホラーについて話したことはない。注射も苦手だし、血を見ると目眩を起こすようなヤツなのに、突然ホラーを見たいと言い出した。
俺の愛する『下町奉行、呪詛を斬る!』はホラードラマだがかなり古い作品のため、ゴア表現がチープでそんなに怖くはない。子どもの頃に見たときは震え上がるほど怖かったが、大人になった今見ると、たいしたことないなと思う。
だからホラー初心者の岡崎でも大丈夫かなと思ったのだが、一話の冒頭から岡崎はガチガチに緊張しており、おどろおどろしいオープニングが始まったときに岡崎の方を見るとほぼ目を閉じているような細目で画面を見ていた。さっきも俺から奪い取ったリモコンの再生ボタンを押しつぶす勢いで押していたが、このザマである。
こりゃダメだ、と思った。
しかし、岡崎は落ち着いたら続きを見ると言う。なんでそこまでするの、と訊くと、
「ボクも遥希くんと怪談オールナイトに行きたいの」
と、泣きそうな顔をした。
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