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 駅構内は花火大会へ行く人で溢れかえっていた。人ゴミが苦手なボクは人に酔いそうになる。きっと酷い顔をしていたのだろう。遥希くんがこちらを向いて、ボクの心配をしてくれた。う、嬉しい。でもボクが人ゴミが苦手だと言うと、じゃあ帰ろうと言って、駅から出ようとした。  もしかして、遥希くん……。  帰りたいのかな……?  そんな! まだ何も始まってないのに!  ボクは必死の思いで遥希くんの腕にとりすがった。大丈夫だと遥希くんの目を見ながら言うと、遥希くんはしんどくなったらすぐ言うように言って、帰るのはやめてくれた。ボクはホッとすると同時に、遥希くんが本当は今すぐ帰りたいのではないかという考えが頭の中を支配し始めるのを感じていた。  そんなのは嫌だった。だってずっと楽しみにしてきたのに。ボクが舞い上がってこんな格好をしてきたばかりに、遥希くん、ボクと一緒にいるのが嫌になってしまったの? 遥希くんが一人で先へ先へと歩いていくのが悲しくて、思わず遥希くんの手を握った。  って、また手ぇ握っちゃった。  ボクには遥希くんに吸い寄せられる性質でもあるのだろうか。理性よりも先に、本能の方が強く働いて、手が伸びてしまった。  あーあ、気持ち悪いって思われたかな。この前も手を繋いでしまったとき、スキンシップが激しいって言われたし。実際激しいんだけど。遥希くん、すごく戸惑ってたよね、あのとき。いや、そりゃ戸惑うだろうけど。今もきっと、戸惑っているに違いない。  ああ、終わった……。  視界がゆらりと揺れた。薄い靄が目の前を覆い、あ、倒れるかも、と思った瞬間。  遥希くんが握り返してくれた。  遥希くんの手の感触が、ビリビリとした柔い、甘い刺激になって身体中を駆け巡る。周りは人だらけのはずなのに、その瞬間だけはそこにはボクと遥希くんしかいないように感じた。  しかも遥希くんは手を握ってくれただけでなく、ボクを遥希くんの方に引き寄せてくれた。周りの人たちから、なるべくボクを離すように。ボクが人が多いのが苦手だって言ったから。その優しさが伝わってきて、とっても嬉しかった。きっと帰りたいなんて、遥希くんは思っていない。そう思えた。  やって来た電車は満員で、中は人でぎゅうぎゅうだった。こんなところに入らないといけないなんて、と憂鬱な気持ちになったが、なんと遥希くんがボクをドア側に連れて行ってくれて、人ゴミから庇うように立ってくれた。しかも意図せずして壁ドンスタイル! 好きな人にこんなことされたら、誰だって抱きつきたくなるでしょう! ……ボクだけなのかな、わからないけど。  こんなに遥希くんに接近したのは遥希くんの家で一緒にお昼寝をしたとき以来だ。あのときみたいに頬をすり寄せたいなあなんて、煩悩にまみれた目で遥希くんを見てしまう。あ、顔の産毛まで見えちゃう。ずっとじっと見ていたいけど、ボクの煩悩で遥希くんを汚しているような気持ちになり、いたたまれなくなる。ボクはそっと目を閉じた。
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