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電車を降りてからも、駅から出たところでも、遥希くんはボクと手を繋いで歩いてくれた。なんという幸せだろう。もう、花火見なくていいからこのまま歩き続けたいなあ、なんて思ってしまう。こんなに人が多くない場所だったら、まさに天国といっても言い過ぎではない。ボクらはしばらく歩き、人が少ない開けた公園にたどり着いた。そこにたどり着くまで、遥希くんはずっと手を繋いでいてくれた。
遥希くんは小さなレジャーシートを持って来ていて、それを敷いてくれた。そこに腰を下ろすと人心地がついて、ボクも遥希くんもふうっと息を吐き出した。人が周りにいないという解放感に、自然と笑顔になる。
ボクは鉄観音さんの麦茶を入れて、遥希くんに飲んでもらった。鉄観音さんは、
「デートで飲む冷たい麦茶は格別やろな。うらやましいぞ、岡崎!」
と、ボクの背中をバシンと叩いて見送ってくれた。確かに鉄観音さんの麦茶は格別で、遥希くんも今まで飲んだ麦茶の中で一番美味しいって言ってくれた。鉄観音さんに伝えたらさぞかし喜んでくれるだろう。ボクたちは美味しい麦茶で花火大会にカンパイした。
涼しい風が、汗を冷やしてくれる。風の吹くままに横を見やると、遥希くんが屋台の並んでいる方を見て微かに笑っていた。その横顔を見て、ドキリとする。遥希くんの顔の周りに細かい光の粒子が飛んでいる。それがキラキラ光って、本当にきれいだ。お昼寝をしている遥希くんを見たときも、確かこんな風にキラキラして見えた。ボクが遥希くんのことを好きだから、こんな風に見えているのだろう。そう思うと、恋って不思議だ。他の人を見ても、こんな風にはならない。ボクにとっては遥希くんだけがこんなにきれいに見える。それはボクの特権のように思えた。ボクだけの、特別な遥希くん。
ボクがあまりにも見つめ続けているからか、遥希くんがボクの方を向いた。真正面から見てもキラキラしている。眩しい。ドキドキする。すごくすごくすごくすごくカッコいい。
好きだ。
そう思った瞬間、恥ずかしくて遥希くんの顔を見られなくなってしまった。大好きな遥希くんがボクを見ているということが、嬉しすぎて耐えがたい。ボクがもっとカッコいい男の子だったら、遥希くんに見つめられても見つめ返す自信を持てるのになあ、と麦茶をすする。
「岡崎……その髪型、よく似合ってる」
遥希くんの低くて優しい声が聞こえた。
「その服も。雑誌のモデルみたいで、会ったときびっくりして声出んかったわ、はは」
え?
今、なんて?
聞こえた言葉の意味を、理解できなかった。だけど、聞き漏らさなかったその声を、ボクは頭の中でもう一度再生する。
「岡崎……その髪型、よく似合ってる」
「その服も。雑誌のモデルみたいで、会ったときびっくりして声出んかったわ、はは」
ん?
もう一度再生する。
「髪型、よく似合ってる」
「その服も」
「雑誌のモデルみたい」
え。
え?
え、え、え、
えええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!?
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