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 たこ焼きがクレーターのような凹みのある鉄板の上で焼き上がっていくのを見ているのは面白かった。 「ボク、たこ焼き食べるの初めて」  そう言うと、遥希くんも屋台のおじさんも驚いていた。  屋台のおじさんは花火大会のことをいろいろ話しながら、ピックで綺麗にたこ焼きをまん丸の形に仕上げていく。その鮮やかさにボクは歓声を上げた。たこ焼きを入れるプラスチックの容器の底に、刷毛でソースが塗られる。その上に出来たてのたこ焼きが所狭しと詰められていき、さらに上からソースが塗られる。 「マヨネーズかけて大丈夫?」とおじさんに訊かれ、ボクと遥希くんは目を見合わせてから肯いた。鰹節と青のりのトッピングをふりかけると、おじさんは端っこのたこ焼きの一つに長めの爪楊枝が二本刺して、容器を輪ゴムでフタした。爪楊枝があるのに割り箸もつけてくれた。ボクはたこ焼きを受け取り、遥希くんがお金を払ってくれた。後で返さなくっちゃ。  ボクたちがお礼を言うと、おじさんは花火大会を見るいい場所を知っていると言って教えてくれた。そこは会場から少し離れてはいるけれど、人は少なくて悠々と花火を見られるのだという。重ねてボクたちはお礼を言って、その場所へと向かう。  屋台のおじさんが教えてくれた場所には確かにあまり人はいなかった。地元の人っぽい人たちが何人かお酒を飲んだり楽しそうにおしゃべりしながら花火が上がるのを待っている。ボクと遥希くんはその中でもあまり人のいないところにレジャーシートを広げて座り、たこ焼きをいただくことにした。  たこ焼きは美味しそうなソースの香りと共に湯気を立てていて、猫舌のボクでは食べられそうにない。丸いまま食べた方がいいのかもしれないけどなぁ、と思いつつ遥希くんの方を見ると、遥希くんは割り箸でたこ焼きを半分に割っていた。ボクもそうやって熱を逃すことにする。同じことをしているボクを見て、遥希くんは微笑んだ。  初めてのたこ焼きはとても美味しかった。なかなか冷めないたこ焼きをはふはふしながら、遥希くんと美味しいねと言い合う。  ああ、至福の時間!   遥希くんに口元にソースが付いていると指摘されて恥ずかしい。ボクはあわててティッシュで口を拭った。ちゃんと取れたか遥希くんに確認してもらおうと、取れているか訊いてみた。 顔を遥希くんの方に向けると、思ったより近くに遥希くんの顔があって、ドキリとする。  ふと、もしボクが遥希くんと付き合ってたら、今、多分、キスとか、してる、な、なんて破廉恥なことを考えてしまう。それくらい近かった。遥希くんはボクの顔を見て、じっとしている。なんとなくだけど、遥希くんがゆっくり近づいてきているような気がする。いや、気がする、じゃなくて、近づいてきている。あれ、遥希くん、近眼だったっけ? そんなことを考えていたら、もう文字通り目の前に遥希くんの顔がどどんとあって、心臓が走り出した。ボクの持つ、遥希くんに吸い寄せられる性質が発動しそうになる。遥希くんが低い、いい声でソースが取れたと言ってくれたけど、その声が本当に色っぽくて艶っぽくて、ソースが取れたをその声で言う必要があるのかわからない。やっぱりボクのこと、振り回しているの?  いけない。このままではキスしてしまう!  自制心を最大限に働かせて、ボクはなんとか遥希くんから離れることができた。熱い。お茶を、冷たい麦茶を飲まなくては。
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