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一
時計は三時半を指している。もう少しで、この退屈で、閉塞的な箱部屋から脱出することができる!だがそれにしても、化学の高橋はよく噛むし説明は間違えるし、教師に向いていないのではないか?仮にも教員免許をとるなら、少しくらい喋る練習をすればいいのに。まあいいだろう許してやる。もう授業は終わるのだから。空は分厚い雲に覆われているが、僕にはこれくらいの天気が丁度よい。快晴の下で雄叫びを上げながら部活をする連中がどうも癪に触るのだ。やつらは曇天の下でダルそうに練習しているくらいが良いのだ。
チャイムが鳴った。高橋は「うわーもう終わりか」とか言っている。それは、時計を見ずに授業をやるからいけないのだ。ほら、やはりあの男は教師には向いていない。クラスを見渡してみると、渡辺が目を伏せて眠っていて、横の生徒が彼らを起こしてやっている。ああ。もう、寝るようなやつは放っておいて早く終わらせてくれればいいのに。授業中に寝るのは見過ごすくせに、終わりだけは起きていて欲しいというのはどういうことなのか皆目見当もつかない。一方で、ついさっきまで寝ていた渡辺は、起こされると気怠そうな感じを見せびらかして、どこかイライラしたような様子である。はぁ…なんて利己的なやつなんだ。君のためにクラスのみんなが待っていたんだ。少しくらい罪悪感を感じたらどうなんだろうか?
挨拶が済むと、皆それぞれの友達のところに集って行って、芸人がどうだのアイドルがどうだの、くだらない話をし始めた。僕はこの時間が一番嫌いだ。授業は終わったのだから早く帰らせてくれれば良いではないか。この時間が長いせいで、そこら辺の作家がしたり顔で書いたと思われるこの興味のない探偵小説を、もう200ページも読んでしまったではないか。読み始めた頃は興味がなかったが、今はもう気になって仕方がない。一体誰が犯人なんだろうか。
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