第24話:共演者たちの実力

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第24話:共演者たちの実力

 初ドラマ出演のシーンが始まる。 「何をガン付けているんだ、そこのオタク雑魚がぁ⁉」  だが撮影前、因縁の《六英傑》三菱ハヤトにガンを付けられてしまう。  芸能科で感じたようにコイツは、かなり自己中心的な“オレ様”な性格なのだろう。 「えーと、申し遅れましたが自分は、ビンジー芸能に所属している市井ライタと申します」  だが相手は主演の俳優様。撮影前に争っても意味が無い。腰を低くして挨拶をする。 「はぁ? ビンジー芸能の市井ライタだと? ん? そのオタク野郎なツラ、どこかで……?」  同じ堀腰学園の芸能科の同期生だが、三菱ハヤトはオレのことを覚えていない。無名で奴は眼中にないのだ。 「ハヤト様、そいつはたしかウチの芸能科ですがD組の奴です。以前、鈴原アヤネさんに廊下で声をかけていた身の程知らずな奴です」  同じ芸能科で取り巻きの俳優が、三菱ハヤトにそっと耳打ちをする。まるで貴族の腰巾着のような存在だ。 「アヤネに声をかけていた奴? ああ、あの時の雑魚か。だが、なんで、そんな底辺野郎が、オレ様の主演ドラマの現場にいるんだぁ⁉」  急遽、共演者に代役があったことすら、この傲慢な男は確認していないのだろう。まるで奴隷でも見てくるかのような態度で接してくる。 「不束者ではご迷惑をおかけするかもしれませんが、今日はよろしくお願いいたします!」  だがオレは気にしないで挨拶する。何故ならオレがD組で、今までドラマの実勢が皆無なことは事実。  無駄に反論をするつもりはないのだ。  ――――そんな時、スタッフの人……かなり偉い地位にいる人から声がかかる。 「えー、ハヤト君、そろそろ準備よろしくお願いいたします」 「……はい、監督! 今いきます」  作品の監督で、本当に偉い人だった。三菱ハヤトは声を変えて返事をする。  なるほど、コイツは性格が自己中心的なだけでなく、裏表が激しいのだ。 「ちっ……オレ様の演技の邪魔をするんじゃねぇぞ、この雑魚がぁ!」  最後にそう言い残して、三菱ハヤトは立ち去っていく。監督の方に向かっていった。 「ライタ君……大丈夫でしたか?」 「チーちゃん、心配ありがとうね」  心配そうに声をかけてきたチーちゃんこと大空チセに、笑顔で大丈夫だと答える。 「ああ、いうのは慣れているから、大丈夫だよ」  前世での不遇なオタク時代と、ブラック企業に勤めていた社会人時代。傲慢で嫌な奴が沢山いたお蔭で、耐性があり慣れていた。  アレに比べたら可愛いモノだ。 「よし、それじゃ、行ってくるね!」 「うん、頑張ってね、ライタ君」  チーちゃんの声援を受けて、撮影現場に入っていく。  彼女はこの現場でのたった一人の仲間だが、推しアイドルからの声援は何百人もの声援にも勝る。  よし、頑張っていこう!  そんな意気込みの中。  スタッフから撮影シーンの最終確認がされていく。 「えーと、ここは……」  スタッフの指示に従い、オレも教室セットの自分の立ち位置につく。  開始の準備を待ちながら、状況の最終確認していく。 (えーと、今回の作品は “学園デスゲーム物”だ……)  “デスゲーム”とは平穏な生活していた登場人物がある日突然、死を伴う危険なゲームに巻き込まれる様相を描く作品のジャンルだ。  その中でも『裏切り地獄教室』は次のようなメインストーリーになる。  ――――◇――――  舞台はとある高校の一クラス。  クラスメイト30人がある日突然、スマートフォンに起動された謎のアプリと共にデスゲームに強制参加されてしまう。  主催者から強制的に提示された色んなゲームに、全員が強制的に参加しなければいけない。敗者や密告者、脱獄者はペナルティとして死を迎えてしまう。  最初は仲良しグループで組んでいた者たちも、次第に自分の命を守るために、段々と自分の欲を丸出しにしていくのであった……。  ――――◇――――  メインストーリーはこんな感じで、学園デスゲームモノでも王道パターンな作品だ。 (『裏切り地獄教室』の作品のテーマは、徐々に変化して人間関係や、ドロドロしていくクラスメイト同士の増悪と愛情だな……)  原作では最終的に生き残るのは、主人公とヒロインの少女、あと三人だけ。  教師を含む他の26人は全員デスゲーム中に死亡してしまう、ややバッドエンド寄りの作風だ。 (原作で人気だったのは、大事な仲間を守りつつ、生き延びていこうとしてく主人公の葛藤だな……)  基本的に学園デスゲーム物に“全員のハッピーエンド”はない。  欲望と生と死、色んな葛藤が混沌としている方が人気のジャンルなのだ。  ――――そんな整理していると、スタッフから声が上がる。 「それではいきます……」  全員の最終確認が終わったのだ。 「それでは……よーい、スタート!」  いよいよ撮影が開始された。  教室の撮影スタジオに、一気に緊張感が走る。  共演者たちは台本に従い演技を開始していく。 『……おい! だから言っただろうが! これから、どうすんだよ⁉』 『……そんなことを言われても⁉ というかお前が殺したんじゃねぇか⁉』 『……なんだと、てめぇえ⁉』  今回のシーンB20は教室内で、メイングループ数人が争うシーン。  既にデスゲームは開幕しており、大勢のクラスメイトが死亡している状況。  そして『デスゲームの首謀者が実はクラスメイトの中にいる可能性がある』という事実に気が付き初め、誰もが疑心暗鬼となっていた。  原作でも最も緊迫している場面の一つだ。 『……や、止めてよ、みんな⁉ 力を合わせて、このデスゲームを生き延びましょう⁉』 『……だったら、どうすればいいんだよ⁉ 次のゲームまで、何か作戦があるのかよ⁉』  自分たちのキャラクターを演じながら、共演者たちは争いっていく。  オレは教室内にはいるが、まだ出番ではなくカメラには映っていない。  共演者の演技を見守りながら、彼らを一人ずつ観察していく。 (うっ……これは……)  観察して気が付く。  心の中で思わず声を漏らしてしまう。 (これはやっぱり……あまり演技レベルが高くないな、みんな……)  共演者の大半は女性モデルや男性アイドルが本業。そのため演技のレベルが予想以上に酷かった。  オレ独自の“評価”で彼らは、“俳優として”は総合的に《D-マイナス》といったところだろう。  ちなみにオレ独自のポイント評価は、次のような感じになる。  ――――◇――――  《本業がモデルや男性アイドルの共演者たち》(平均値)  演技:F  表現力:D-  ビジュアル:B-  アピール力:C-  天性のスター度:D+  ☆総合力:D-  ――――◇――――  といった感じなる。  各項目の評価値は最高がSで最低がF。  トレーニングを受けていないデビュー前の子は、Dでもそこそこ凄い方。Cだとけっこう凄い方で、Fは良くない数値だ  つまり共演者たちは“俳優として”は、かなり低い総合評価になるのだ。 (うーん、みんな見た目は悪くはなんだけど、肝心の《演技:F》だから、どうにもならないだよな……)  モデル業やアイドル業と違って、ドラマ撮影に一番大事なのは演技力。  いくら見栄えは良くても、あまりにも低すぎる演技力が、逆に違和感になってしまうのだ。 (ふう……よく、こんな演技の素人ばかりキャスティングして、ドラマを作ろうと思ったんだろう? でも、これも仕方がないのか……)  前世の歴史では今回の映画版は、最初から演技による高評価を狙っていない作品。  あくまでも《エンペラー・エンターテインメント》系列のモデルと男性アイドルに、“ドラマ出演した経歴あり!”という箔をつけさせるための作品なのだ。 (あと、よく思い出すと、漫画原作と違って、ここまでもストーリーをかなり改悪しているよな?)  一人ずつ緊迫してデスゲームで死んでいく原作とは違い、映画版の『裏切り地獄教室』ではいきなり開幕で十五人も死んでしまう。  前世でも原作勢に批判されていた、改悪ポイントの一つだ。 (まぁ……たぶん予算が少なくされて、仕方がなく改悪されたんだろうな……)  映画やドラマは出演者とシーンが多い分だけ、手間と予算、撮影日数が多くかかってしまう。  だが逆に原作を改変することで、予算を大幅にカットできる。今回はその方式が使われているのだ。 (低予算でドラマ化して、自社タレントに箔をつけさせるためには、この『裏切り地獄教室』は都合が良かったのかもな……前世の評論家によると)  基本的に『裏切り地獄教室』の舞台は校舎の中だけで、登場人物も制服しか着ていない。CGや特殊な演出も不要。  そのため他の予算も普通のドラマに比べて、かなり節約して製作できる。  そのカットした分を多く、出演者関係の宣伝費などにかけていたという。  前世の結果は語る。  映画版『裏切り地獄教室』は『ドラマとしての評価はいまいちだが、出演した新人たちはある程度の箔をつけさえること成功した作品』なのだ。 (ふう……オレの初出演のドラマがクソ作品となってしまう歴史が確定……か。このことは悔しいけど、決して代えられない歴史だからな。まぁ、オレは自分ができることを全力で頑張ろう!)  たとえクソドラマ確定でも、今の自分はプロの俳優。気持ちを切り替えて自分の出番を待つことにした。  たとえ共演者たちの演技がいまいちで、撮影現場の緊張感が薄れてきたとしても。  ――――だが、そんな時だった。 『――――おい、みんな! 争いはそこまでだ!』  緊張感が薄れてきた撮影現場に、“稲妻”が走る。 『『『アキラ⁉』』』  声を上げたのは作品の主人公アキラ……三菱ハヤトだった。 『みんな、聞いてくれ! このデスゲームを切り抜けられる策を見つけたぞ!』  今までの共演者とは違い、三菱ハヤトの声はよく通っていた。  いや……声だけではない。  演技そのものが段違いに上手く、彼は大きく演技をしていた。 (三菱ハヤト……さすが《天才俳優(ジーニアス・アクター)》様……といったところか)  たった少しの演技を見ただけでも、他との違いが感じられる。  先ほどの大根役者たちは、レベルが違う演技力なのだ。 (俳優としての総合力は……)  ――――◇――――  《三菱ハヤト》  演技:A  表現力:B+  ビジュアル:A-  アピール力:B+  天性のスター度:A-  ☆総合力:A  称号:《六英傑》、《天才俳優(ジーニアス・アクター)》  固有能力:《唯我独尊(ゆいがどくそん)》  ――――◇――――  こんな感じで、オレの中で彼の総合評価は現時点ではAだ。 (ビジュアルやスター度もかなり高いけど、特出すべきは、この演技力の高さだな……)  はっきりいって三菱ハヤトの演技技術は高かった。  セリフと全身の動き、顔の表情や表現力など、他の共演者とは段違いなのだ。  ちなみに『固有能力:《唯我独尊(ゆいがどくそん)》』は演技から感じた、彼独特の固有能力的な評価。  良くも悪くも彼の自己中心的な性格が、演技者としての表現力となっているのだ。  あっ……もちろんオレの中での勝手な命名と評価方法だ。 (さすがは《六英傑》の一人……《天才俳優(ジーニアス・アクター)》といったところだ……)  彼は業界最大手の芸能事務所(エンペラー・エンターテインメント)の今もっとも売り出している新人(六英傑)の一人。  なおかつその中でも俳優としての力を売っている《天才俳優(ジーニアス・アクター)》。  おそらく日本の新人の中では、断トツの俳優の才能の持ち主なのだろう。 『――――こんな時だからこそ! みんなの力を合わせて、全員でこのデスゲームを生き抜こう!』  そして主人公アキラ役と三菱ハヤトは“見事にマッチ”していた。  互いに似ている部分が多いキャラのために、演技がそのまま生えているのだ。 (三菱ハヤト……か。たしかに素晴らしい俳優さんだけど、その分だけ、今回は不遇だな……  一彼の演技が高すぎることで、今作品の別の問題が見えてきた。  問題が起きている理由は『共演との演技の力の落差があり過ぎる』こと。  モデルや男性アイドルたち大根役者との演技と、三菱ハヤトの演技力の差がありすぎるのだ。  そのために今も撮影現場は、何ともいえない微妙な感じがある。 (ん? でも監督も止めるような雰囲気はないなぞ? なるほど、つまり、この場にいる全員が割り切って仕事をしている、ということか?)  おそらく監督やスタッフたちは知っているのだろう。  今回は『《エンペラー・エンターテインメント》が主体の作品であり、ドラマとして高い評価は不要。必要なのは低予算かつ短期間で配信して、事なき終えることが最良』だということを。 (これも業界の忖度(そんたく)……大人の世界という訳か)  前世では社会人を経験していたオレも、大人の世界が灰色なことは知っている。ましては特殊な芸能界では、更に忖度が多いのだろう。 (郷に入っては郷に従え……しかないな)  だから今さら熱く意見して、現場を乱すことはしない。  今の自分がすることは『新人俳優として与えられた役をベストに演じること』なのだ。  あっ、そうだ。  オレの演技も『共演者の低い演技力よりも上だけど、三菱ハヤトよりは高くない演技力』で力を調整した方が、ちょうどバランスが良いのかもしれない。  肝に命じて“あまり全力を出さない”ように調整していこう。 (おっ? そろそろオレの出番が来たぞ!)  観察しながらそんなことを考えていると、自分の役の出番がやってきた。  いよいよドラマ初シーンがやってきたのだ。  さて、台本通りに精いっぱい頑張るとするか!  場面はシーンの見せ場だった。  主人公アキラが主人公らしく、クラスの雰囲気を熱くさせていた。 『――――このデスゲームを早く終わらせるために、科学室にいってみよう! あそこにヒントがあるはずなんだ!』 『でも科学室は鍵がかかったままよ、アキラ君?』  主人公アキラとヒロイン絵里のやり取りある。  そして次はオレの出番がきた。 「あれれ? 科学室の鍵は、このボクが持っているよ? でも鍵を欲しかったら絵里ちゃんを、ボクのパートナーにしてくれないと、鍵は貸せないよー」  オレの演じるのは作品の汚れ役。  デスゲームが開幕する前は、科学部“タクロウ”役。  クラス内では、いわゆるカースト最底辺だったオタクだ。 「あの絵里ちゃんが、ボクのペットに……えっへっっへ……」  だがデスゲームが開幕した後、タクロウは豹変する。  重要な鍵を手にしていたために、自分の欲望を剥き出しにしていくゲスキャラだ。 『キャ⁉ ア、アキラ君……ドウシヨウ? でも、アキラ君を助けるために、私が犠牲にナレバ助かるカラ……』  欲望剥き出しとなったゲスなタクロウの前に、ヒロイン絵里は覚悟を決める。自分の乙女を犠牲して、大好きなアキラを助けると。 (よし、出だしのセリフはいい感じかな? この次は主人公アキラが颯爽とカッコよく止めに入るはず……ん? あれ?)  だが予想外のことが起きる。  原因は主人公アキラのだった 「タクロウ、お前という奴はぁああ⁉」  主人公アキラが……いや、三菱ハヤトが台本とは違う演技を、オレに向かってしてきたのだ。
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