第26話:初シーンの後に

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第26話:初シーンの後に

 初シーンの撮影から二週間が経つ。  オレが出演したシーンが昨日の夜、最新話としてネット配信された。 「うう……朝か……」  今は翌日の早朝。  ベッドの中で昨夜のことを、ふと思い返す。 「ふう……撮影から、たった二週間で配信か……地上波のドラマに比べて随分と早いな、この作品は?」  ミサエさんの話によると、今回の予算が少ない作品。撮り直しの少ない現場で、編集も簡素化されたもの。  スピード勝負でどんどん配信していく、俗に言う雑なスタイルだという。 「まぁ、これも今の時代風なんだろうな」  昔のドラマはかなり前から撮影をして、入念な編集をして放送していたという。  だが今は地上波よりも、ネット配信の方が右肩上がりの時代。ライブ配信のアプリやサイトの方が人気だった。  そのためドラマ撮影方式も、どんどんと進化している最中なのだろう。 「さて、今日も頑張るとするか」  冷静になったところでベッドから身体を起こして、学校に行く準備をする。  堀腰学園の制服に着替えて、一階のリビングに降りていく。 「あっ、ライタ、おはよう。今日はトーストでいいかしら?」 「おはよう、母さん。うん、ありがとう」  オレは朝からガッツリ多く食べる派。  義母の焼いてくれたトーストに、目玉焼きとベーコンを挟んで、一気に口にほおばってく。  おっと。朝の貴重な時間が惜しいので、このまま牛乳で流し込もう。 「そういえば……ライタの出たドラマ見た話わよ!」 「⁉ ブ――――! えっ、えっ、母さん、見たの⁉ オレのドラマを⁉」  まさかの義母からの言葉に、思わず牛乳を吐き出しそうになる。というか、少しだけ出てしまった。 「そりゃ、もちろんよ。だって可愛い息子の初仕事なんだから、ライタの出ているシーンはパパと何回も見たわよ」  前回のヘッドフォンのCMのことは、家族にも内緒にしている。そのため今回のドラマが、家族内でもオレの初仕事となっていた。 「そ、そうだったんだ……もう、恥ずかしいな……」  一応はプロの俳優デビューはしたけど、家族に自分の演技を見られるのは恥ずかしい。  更に面と向かって感想を言われた日には、羞恥心で顔から火が出てしまうだろう。 「あと、ママ友のグループラインにも、後でドラマのことを教えておこうかしら? 小中の頃の同級生も、きっとビックリするわよ」 「ちょ――――ちょっと、母さん⁉ それだけ勘弁してよ⁉ ま、まだチョイ役だから、そこまで話を大きくされたら、恥ずかしいから! ほら、ほう少し有名になってからの方がいいと思うよ、オレも?」  近所にいる小中の同級生に知られたら、それこそ何を面と向かって言われるか分からない。何としてでも阻止しないと。 「あら、そうなの? それじゃ、グループラインで教えるのは、もう少し後にするわね。残念ね……」  ふう……なんとか最悪の状況は阻止できた。  だが、まだ油断はできない。  義母さんのこの舞い上がりようだと、ちゃんと釘を刺しておいかないと危険だ。  このままだきっと、近所のスーパーのレジの人にも『聞いてくださいよ、実はウチの息子がドラマに出演したんです!』と話を広げていきそうだ。 「ふう……なんか予想以上に恥ずかしいな、母さんに見られると」  義母に全ての口止めをしておく。なんとか一息つく。 「お兄ちゃん! もちろんユキも見たよ!」 「えっ――――ユキも⁉」  だが新たなる家族が乱入してくる。一歳下の義妹のユキだ。 「大好きなお兄ちゃんの初仕事だから、もちろん見るに決まっているじゃん! お兄ちゃんのシーンは昨夜で、もう百回以上はリピートしたんだから!」 「あっはっは……そうだなんだ」  ユキはもう中学三年生だが、昔から兄離れができていない困った妹。  可愛い外見で、中学でもモテているみたいだから、もう少し女の子らしく欲しいものだ。  そんなことを思っているとユキと義母さんが、ドラマについて感想を言い始める。 「ああ、それにしてもお兄ちゃん、本当にカッコイイ演技だったよね、ママ?」 「そうね。お母さんは演技のことはよく知らないけど、あの中だとライタが一番上手に見えたわ」 「うんうん、さすが私たちのママ、見る目があるね! あっ、でも、あのドラマの編集は最悪だったかも。だって、お兄ちゃんの演技と顔の部分が、意図的にカットされていたよ! そう思わない、ママ⁉」 「あら、そう言われてみれば……たしかにライタとのやり取りでも、主人公の子の方がアップにされていたわね?」 「実際にそうなのよ、ママ! あんな“三菱なんとか”っていう不細工な主役よりも、カッコイイお兄ちゃんをもっとアップで映せっていうんだよ、もう!」 「あらあら、ユキはお兄ちゃん想いで、本当に困った子ね? でも、ウチのライちゃんが本当に日本一カッコイイ子だから、あれじゃ勿体ないわよね」  親バカと兄バカな女性陣が納得いってないのは、オレが出演した放送されたシーンのこと。  明らかに意図的に、主人公の三菱ハヤトがクローズアップされていたのだ。 「まぁ、まぁ、二人とも落ち着いてよ。ほら、ドラマには“演出”も大事な要素だからさ」  今回のドラマは演出以上に、『《エンペラー・エンターテインメント》と三菱ハヤトに媚びを売る』という強力な大人の忖度(そんたく)が水面下で動いている。  そのためこの二週間の編集の段階で、色んな裏の作業が行われていたのだろう。  改造されて放送されたシーンが、まだ見ていないオレにも目に浮かぶ。 (ふう……でも、いったいどんな感じで放送されたのかな?)  実は自分の出演したシーンはまだ見ていない。自分の演技を見るのは恥ずかしいから、昨夜も見られずにいたのだ。 (まぁ、今回の作品は、あまり気にしない方がいいかもな……)  ドラマ版の『裏切り地獄教室』は地雷作品となるのが、歴史的に確定している。そのためネット耐性が低いオレは、今後も見ない方がいいはず。  今のオレに出来ることは、自分の役にベストを尽くすことだけだろう。 「あと、ママ、聞いてよ。ユキ、思ったんだけど、お兄ちゃんと、主役の奴以外の演技が、お遊戯会レベルだったよね? あれだったら、ユキの方がヒロイン役を何倍も上手くできるよ!」  ユキが憤慨しながら指摘していることは、ほぼ間違っていはいない。  兄っ子のユキは幼い時から、オレの真似をして演技と歌ダンスの鍛錬をしてきた。そのため素人より、大根役者よりも演技の基礎ができているのだ。  ちなみに妹のユキの“オレ的評価”は、次のような感じなる。  ――――◇――――  《市井ユキ(中学三年春:事務所に所属していない完全な素人)》  ※女優として  演技:D- (D評価オレよりも少しだけ劣るから)  表現力:D- (D評価オレよりも少しだけ劣るから)  ビジュアル:C (可愛いと評判だが、客観視はできない)  アピール力:D (オレよりも陽キャだから)  天性のスター度:D (オレよりも陽キャだから)  ☆総合力:D- (もしかしたらオレよりも俳優に向いている説あり)  ※女性アイドルとして  ダンス技術:D- (D評価オレよりも少しだけ劣るから)  歌唱技術:D- (D評価オレよりも少しだけ劣るから)  表現力:D (オレより上手いような気がする)  ビジュアル:C (可愛いと評判だが、客観視はできない)  アピール力:D (オレよりも陽キャだから)  天性のスター度:D+(キラキラしているような気がする)  ☆総合力:D (女優よりもアイドル性があるような気がする)  ※自分の妹ことなので《客観視》に阻害補正有り  ※更に自分ことにも《客観視》に阻害補正有り  ――――◇――――  こんな感じではなかろうか?  総合的に妹ユキは『外見が良くて、承認欲求が高く、陽キャでコミュ力が高い』ので女優よりも、アイドルに向いているような気がする。 「あっ、そうだ、お兄ちゃん! 今度、ユキもお兄ちゃんと同じ事務所に入れるように、社長に聞いてみてよ? そうしたら、放課後もお兄ちゃんと一緒にいれるし!」 「あっはっは……たぶん無理だと思うけど、いつか聞いてみるね」  でも、それはあくまでもユキを『女優orアイドル』として究極の選択をした時の結果だ。  あくまで妹は『素人としてオレと同じように、少しだけ演技と歌とダンスが上手いだけ』で、本当にプロにはなれないだろう。  だから空返事で答えておく。 「あっ、ヤバイ、もう、こんな時間だ! いってきます!」  家族と初ドラマの話をしていたら、いつの間にか朝の貴重な時間が過ぎていた。  オレは急いで朝の準備を済ませて、学園に急いで向かうのであった。  ◇  なんとかギリギリで、教室に間に合うことに成功する。  ふう……先生が来るまで、息を整えておかないと。 「おはようさん、ライタ!」 「あっ、ユウジ。おはよう!」  席についたオレに声をかけてきたのは、金髪の友人ユウジ。ミュージシャンで“なんちゃって関西弁”を使う明るい奴だ。 「あっ。そういえば、ライタ! 昨日、見たで! もうドラマ出演が決まっていたなんて、水臭いぞ、ライタ⁉」 「ありがとう。まぁ、情報が公式公開されるまでは、ウチの学園は、ほらアレだからね」  堀腰学園では『お互いの今の仕事内容は、クラス内でも口に出さない』ことが良識とされていた。  公式発表された後なら、話題にしてもOKなのだ。  だが今回のオレは急遽代役なために、低予算な番組の公式HPにも変更されていなかった。  そのため数少ない友人であるユウジにも、まだ言えてなかったのだ。 「ああ、守秘義務って、ことかー。まったくライタも、一丁前にプロの芸能人デビューした、っていう感じやなー、よっ、千両役者さま!」 「ちょ、ちょっと、いきなり持ち上げないでよ。出演したっていっても、代役でたった少しのチョイ役だから」 「チョイ役でも、役は役やで! とにかく、これでウチのクラスじゃ、チー嬢とライタの二人が同じドラマに出ている訳か?」 「うん、そうだね。チーちゃん……大空チセさんは、今日も撮影があるみたいだけど」  チーちゃんはオレと同じ嫌われ役だが、出番回数は少しだけ多めの役。今日も校舎スタジオで撮影のため、公休で休む予定なのだ。 「なるほどな。ほな、これからチー嬢とライタへのクラス内での風当たりも、少しは良くなりそうやな? なんせドラマに出演の経歴が付いたからのう」 「あー、それはどうかな? ドラマに出演したっていっても、今回のは、評価されにくいポイントだし……」  しばらく芸能科に通って、この学園の生徒内での独特の評価方法が分かってきた。  大まかに分類と次のような感じなるのだろう。  ――――◇――――  《芸能科内でのドラマ系俳優部門の実績評価》  Aポイント:ゴールデン地上波の連続ドラマの主演級  Bポイント:ゴールデン地上波の連続ドラマのメインキャラ級、  地上波の連続ドラマの主演級  Cポイント:地上波の連続ドラマのメインキャラ級、  ネット配信のドラマ主役級、  地上波深夜系ドラマメイン級  Dポイント:ゴールデン地上波ゴールデンの連続ドラマのわき役級、  ネット配信のドラマのメインキャラ級  Eポイント:地上波のモブ役など  ――――(越えられない壁)――――  Fポイント:ネット配信ドラマのモブキャラ  ※堀腰学園の芸能科の独自の評価ポイントのために、世間とは少し違う可能性あり  ――――◇――――  こんな雰囲気で実績は加算されているのだろう。  今はネット配信が右肩上がりの流れだが、まだ地上波ドラマに出演する人の方が、高く評価されている風潮なのだ。 (だから今回のオレとチーちゃんは“Fポイント”だな……)  今回のオレたちは地上波放送ではなく、予算の少ないネット配信のドラマ。しかも二人ともメインキャラではなく、嫌われモブキャラだった。  だから実績加算があって、ないようなものなのだ。 「ほら、ユウジ……その証拠に、クラスの雰囲気が、まだこんなんだし?」  今日はオレがドラマに初出演が配信された翌日。だがユウジ以外の誰も、オレに関心を向けてこない。  ざわ……ざわ……  クラス内でも『裏切り地獄教室』の話はされているが、彼らからはオレたち二人の名前は聞こえてこない。  話題になっているのは主演の三菱ハヤトとA組のメインメンバーの名前だけなのだ。 「ああ、せやな……ここの芸能科の連中の評価を勝ち取るのも、なかなか厳しいのう、この感じやと?」 「そうだね。この人たちに認められるには、もっと上を目指さないといけないかもね」  芸能科に通うのはプロと、プロを目指す者だけ。家族のような甘い評価はないのだ。  だから今回のような役では何回出演しても、クラス内や芸能科での評価は微々たるものだろう。  芸能科で話題になっているのは常に、A組のようなメインキャラ役の人たちのことだけなのだ。 「とりあえずオレは自分の役にベストを尽くすよ。次回で最後の撮影に向けてね!」  オレの撮影シーンはまだ今週末に残っている。  とは言っても残るは一回だけなので、次が実質的にラスト現場になるのだ。  でも一回あるだけでも、チャンスがあるのは有りがたい。  次回もたった数分のシーンだけど、オレは自分の持つ力を出すつもりだ。  あっ……でも、また暴走しないように次回は気を付けないとな。  キンコーン♪ カンコーン♪  そんな時、授業開始の予鈴が鳴る。もう少しで一限が始まるのだ。  よし、気持ちを切り替えて、授業に集中していこう。  ◇  午前の授業は進み、あっという間に昼休み時間なる。 「ねぇ、ユウジ、今日も牛乳を買いに、食堂に寄ってもいい?」 「ああ、ええで」  最近のオレたちの静かなランチ場である校舎裏、そこに移動する途中で食堂に寄ることにした。  何しろ食事中の牛乳は格別だからね。  ざわざわ……ざわざわ……  今日も食堂の中は満席状態だった。  いつものようにかなりザワついた様子。誰もが食事をしながら雑談をしている。 (ん? あそこは……?)  そんな食堂の中でも、ひときわザワついている場所があった。 (あれは《六英傑》のグループ……か)  そこは一年のエリート《六英傑》が座っているテーブル周辺。アヤッチこと鈴原アヤネは、今日はいない。  ざわざわ……ざわざわ……  《六英傑》の周囲にいる“取り巻き”の生徒たちが、いつも以上にザワついている。  いったい何をそこまで騒いでいるのだろうか?  牛乳売り場に行くためには、どうしてその横を通る必要がある。  視線を合わせないように通り抜けようとする。 「……いやー、さすがハヤト様のですね! 昨夜の放送回は、ネットでもかなりの高評価ですよ!」 「……ハヤト様の演技に素晴らしすぎて、ネット評価でも既に“神回”だと評判ですよ!」 「……さすがは我らがハヤト様です!」  取り巻きがいつも以上に騒いでいるのは、昨夜配信された『裏切り地獄教室』の最新話に関してのこと。  三菱ハヤトの最新話の演技がかなり高評価だったと、持ち上げて騒いでいるのだ。 (なるほど、そういうことか。たしかに三菱ハヤトの“あの時の演技”は、監督たちにも褒められていたからな……)  あの時の監督は、たしか『ハヤト君と“タクロウ役の彼”の演技は、かなりアドリブで進んでしまったが、結果として二人とも素晴らしいシーンが撮れた!』と言っていた。  あの時の雰囲気だと、おそらくオレが帰った後のシーンでも、三菱ハヤトは良い演技を連発していたのだろう。  普段以上にハイテンションな取り巻きの様子から、あれ以降の撮影が好調だったことが推測できるのだ。 (そうかオレの出た話は、高評価だったのか、すごく嬉しいな……ん? あれ? でも、どういうことだ?)  嬉しくなりながらも、ふと疑問が浮かんできた。  何故なら前世ではドラマ版『裏切り地獄教室』に関して、好評版なことは一つも聞いたことがないのだ。  でも、どうして昨夜の最新話だけが、今世では高評価を得られているのだろうか?  もしかしたら……オレの知らないところで、何かの歴史変換があって、ドラマの出来が良くなっていった、とか? (ドラマの中で一番影響力があるのは主役……つまり『三菱ハヤトがなぜか前世以上に頑張って演技している』のかな? でもどうして、彼の演技が急に変わったんだ、あの後に?)  色んな疑問が渦巻き、どうしても気になってきた。  移動しながら一瞬だけ、座っている三菱ハヤトに視線を向けてみる。 (三菱ハヤト……どう反応しているんだ?)  取り巻きからの、よいしょの連発。  今までの三菱ハヤトは尊大な言動で、唯我独尊な態度で、取り巻きに話を返すだろう。 「いやー。さすがは我らがハヤト様です!」 「……ふん。あの程度で騒ぐな、お前たち。オレ様の本気はあんなモノはないからな……」  だが、なんと。  三菱ハヤトは尊大な態度ではなかった。いつものようにオレ様言葉ではあるが、何かが違うのだ。  なんとなく……『自分よりも上の才能があるかもしれない存在に出会い、葛藤しながらも自分を保とうとしている』ような雰囲気に、オレは感じる。  いや……オレの勘違いかもしれないけど。 「……ん?」  あっ……しまった⁉  あんまりガン見しすぎて、三菱ハヤトと視線が合ってしまった。  やばい!  このままだと前の時と同じように『何をガン付けているんだ、そこのオタク雑魚がぁ⁉』と因縁をつけられてしまうだろう。 「お前は……」  だが相手の反応は前回と違っていた。  三菱ハヤトはハッとした表情で、急に立ち上がる。 「お前は……ビンジー芸能の……市井ライタ⁉」  更に驚いたことが起きる。  三菱ハヤトはオレの顔を直視しながら、名前を呼んできたのだ。  今まで『顔も知らない無名な雑魚野郎』と見下していたのに、たった一度だけ教えたフルネームを呼んでくる。  これは、どういう心境の変化なのだ? 「あ、うん、えーと、おはよう、三菱ハヤト……君」  動揺しながらも、業界的な「おはよう」挨拶を反射的にする。  通り抜けることができずに思わず立ち止まって、三菱ハヤトと対峙する体制になってしまう。 「ん? どうしたんですか、ハヤト様?」 「誰ですか、そいつは?」  主君である三菱ハヤトの突然の行動に、取り巻きたちは首を傾げる。無名なオレの顔を睨んでくる奴もいた。  そして不可解に思っているのは、取り巻きだけはなかった。 「おい、ハヤト。いきなり立ち上がって、どうした?」 「そんな雑魚に、なんで反応しているのよ? あんたらしくないわね?」 「《六英傑》らしからぬ言動は、我々の仲間として失格だぞ?」  一緒に座っている《六英傑》も不思議そうにしている。  何故なら相手、オレは顔も知られていないD組の最底辺の雑魚。  どうしてエリートの中のエリートである三菱ハヤトが、わざわざ名前を覚えているか? この状況を理解できずにいるのだ。  ざわ……ざわ……ざわ……  先ほどとは違う意味で、変な感じで周囲がざわつき始める。食堂中の変な視線が、オレに突き刺さってきた。  うっ……これはまずい雰囲気だぞ。 「あっ、食事中にじゃましてごめん。それじゃ! いこう、ユウジ!」  気まずくなったので、急いで離脱することにした。ユウジの手を引っ張って食堂を後にする。 「おい、待て……ちっ……」  後ろで三菱ハヤトが舌打ちをしたように聞こえたが、きっと気のせいだろう。  振り向かないで、脱兎のごとく校舎裏に逃げていく。  ◇ 「ふう……怖かったな、さっきは……」 「せやなー。あれなら、ライタの撮影が終わるまでは、学園では《六英傑》に近づかん方がええかもな?」 「うん、そうだね」  ずっと尊大だった三菱ハヤトがどうして、あんな態度を急にとってきたか、分からない。  だがユウジのアドバイス通り、『君子危うきに近寄らず』だ。彼らには撮影終了までは近づかないことにする。 (ふう……なんかよく分からないけど、とにかく次の撮影は頑張ろう!)  色々あったけど最後の撮影で、ベストを尽くすことを誓うのであった。  ◇  ◇  ――――そして更に一週間が経つ。 「おはようございます! ビンジー芸能に所属している市井ライタです! 今日もよろしくお願いいたします!」  オレが出演する最後のシーン……主人公アキラと嫌われ役タクロウが科学室で対決するシーン。 「きたか……市井ライタ」  《天才俳優(ジーニアス・アクター)》三菱ハヤトとのラストバトルがついに始まるのであった。
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