感情と君

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感情と君

新学期、新しいクラス。 なんで、自己紹介をしないといけないんだろ。 「門崎灯です。よろしくおねがいします」 一人ずつ立ち、その場に立って自己紹介。 私はただ反応がないまま座った。 はぁ…。心でため息をついた。 「じゃあ次、霧野」 「はい」 霧野くんがその場に立つ。少しずつ、教室がざわめき出す。 私のときは静かだったのに…。 でもこのざわめきは、霧野くんにとっては嫌なざわめきだ。 「霧野柊生です。よろしくおねがいします」 まっすぐ前を向いて、霧野くんは言った。そして座った。 ざわめきが少しずつ収まっていき、次へ次へと自己紹介が進んだ。 「俺のこと、嫌いにならないの?」 昼食時間中、急に霧野くんが話しかけてきた。 「え、どうして?」 なんで、聞いてくるんだろう。 「だって俺、留年だし。しかも原因、タバコだし」 そうバツが悪そうに霧野くんが言った。 なんでタバコなんて…。 「何でタバコか?」 霧野くんがぼそっと言った。 読まれた!? 私は少しビクッとした。そして、何も言わずコクリとうなずいた。 霧野くんは、フッと笑っていった。 「『大人になりたかった』から。 大人がしていることをすれば、大人になれるって。 まぁそんな事考えてる時点で、子どもなんだけどな」 さらっと霧野くんは言ったけれど、心の叫びのようなものだった。 「『タバコ吸え場大人』って。 そんな事思ったその時の俺を殴りてー」 少し笑みを浮かべながら、霧野くんは言う。 けれどその微笑みの中に、本当の感情が隠れているのかもしれない。 雲に隠れた、月のような。
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