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世界と君
帰りのHRが終わり、教室にいた生徒たちは、次々廊下に出ていく。
「じゃあ、また明日」
霧野くんはそう言って、帰っていった。
私も帰ろう。
カバンに荷物を詰め、帰ろうとしたその時。
「門崎、ちょっと」
新しい担任の先生、渡良瀬先生に呼び止められた。
「はい…」
なんだろう、そう思いながらも先生の元へ向かった。
場所は、職員室に変わった。
渡良瀬先生は、他の先生と違ってクールというか、サバサバしているというか。女性の先生だけど、言葉遣いは男っぽいというか。
「今日、霧野と一緒に来ていたな。それはどうしてだ?」
先生が他の資料に目を通しながら、私に聞いた。
「私今日、遅刻しちゃって。急いでいる途中に、会ったんです」
私がそう言うと、先生は手を止め、私の方へ顔を向けた。
「お前は、霧野とは違う。あまり、関わらないほうが良いのでは?」
そういう先生の顔は、少し怖い感じだった。
「なんでですか?」
「アイツ…霧野は、悪く言えば問題生徒だ。
門崎は真面目なんだから、あまり関わらないほうが良い。
下手したらお前も、変な目で見られるぞ」
私のために言ってくれている。それはわかっている。
けど、霧野くんをそんな否定的に見るのは、間違っている!
「私は、霧野くんは優しい人だと思っています。
先生は、『問題生徒』目線から見てしまうから、よけいに感じてしまうのではないですか」
怒りが増してくる。まだ、会って一日も経っていないけど、私は分かる。
「霧野くんはいい人です。優しい人です。
そんなふうに見るのは、先生のほうが間違っています!」
言い切った…。は!…もしかして失礼…?
恐る恐る先生を見ると、先生は「プッ」と笑いだした。
「あはははははっ!悪い門崎、私が悪かった。
私も、お前に同感だ。霧野は良いやつだ」
え、どういう事…?
「実はなぁ、お前が今日霧野と一緒に来たのを、生徒指導の先生に見られてな。その先生に言われたんだ『門崎を霧野から離れさせろ』ってな」
見られてたのか…、でも先生はわかってくれている。
「私はなぁ、霧野みたいなやつは嫌いじゃない。
タバコを吸ったのは確かに悪い。まぁ、私は吸ってるから言えないが。
けど、霧野は留年になっても、こうやって門崎と教室に来た。
生徒指導の先生なんて気にするな。顔を上げ、前を見て、世界を広げろ。
私も、門崎のそばにいてやるから。よし、帰っていいぞ」
「はい!ありがとうございます」
わかってくれている人がいるよ、霧野くん。
嬉しいような、そんな気分で、私は廊下を歩いていった。
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