守る者

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守る者

次の日、教室に向かうと、なぜか霧野くんは生徒がざわついている中、一人立っていた。霧野くんの目の前に、椅子も机もなかった。 「どうしたの?霧野くん…」 「朝来た時、俺の席がなかったんだ」 「そんな…」 周りを見渡しても、誰も目を背け、霧野くんの現状を知っているはずなのに、誰もこっちを見ない。 「おぉ〜霧野来てんじゃん! お前の席もうねぇから!だっけか?はははははははっ」 後ろの席から、男子の声が聞こえた。 そしてポッケに手を突っ込みながら近づいてきて、ジロジロと霧野くんを見た。 「お前がいると風紀が乱れるんだよ。お前は自分のに戻れよ」 何なの、この人…。 殴ってしまおうか、そう思った時、前の方のドアがガラッと開いた。 「よいしょっと…、おい霧野!お前の席だ」 そこから現れたのは、霧野くんの机椅子を両手で持ち、はぁはぁと荒い息をする渡良瀬先生だった。 「先生…」 霧野くんは先生の元へ行き、机椅子を受け取った。 「おい、何してんだよ!」 さっきの男子が叫ぶ。 「何って…机椅子が放り出されていたから持ってきたんだよ」 「何で持ってくるんだよ!俺は、霧野を追い出したんだ!余計なことすんなよ!」 相談師が叫ぶと「?」と先生はピクリと眉を動かした。 「誰の許可を得て追い出した。お前にはそんな権利ないだろう」 「こいつがいたら、風紀が乱れるんだよ!」 「お前のような自分勝手な行動をする人間がいるから、風紀が乱れるんじゃないか?おかげで朝から腰が痛くてなぁ」 先生が不機嫌なオーラを放ちながら男子の元へ歩いていく。 「霧野は、私の生徒だ」 先生はそう、きっぱりと言った。 「たとえお前が霧野の席を放り出したって、何度だって私が持ってくる。 霧野は私の生徒だ。私が守る生徒だ。 この新学期、いつ霧野が風紀を乱すようなことをした? ちゃんと来て、自己紹介をして、ちゃんと授業を受けた。違うか?」 先生の言葉に、男子はバツが悪そうな顔になる。 「お前のような人間がいることで、霧野が勉学を損なうというのならば、 私は霧野が卒業でき、社会へたび立つことができるよう私が守る」 教室にいた生徒達は、先生と男子の攻防戦に目を向けていた。
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