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意味と君
いったい…なんだろう。
「実は…本を読んでたんだ」
…本?
私は視線を落とすと、霧野くんは本を閉じてこちらに見せていた。
私は霧野くんの方を手に取る。
「これは…」
「本っていうか小説っていうか、俺が一番に気に入っている作品なんだ。
俺、集中しちゃうと字を読んじゃうらしくて、よく親に怒られるんだ」
『ハハッ』と霧野くんは笑った。
…知らない一面。
「これ、どんな話なの?」
「えっと…元は外国の作品で、日本語に翻訳された作品で、
耳が聞こえない男性と、そんな男性を好きになった女性が出てくるんだ。
お互いに好き同士なんだけど、男性は自分が耳の聞こえない人間だから彼女には似合わないと思ってて、女性は女性で自分は好きなのに踏み込めないっていう、うじうじしたラブストーリーなんだ」
霧野くんはそれは楽しそうに話している。
題名は、『スカートとリズム』と書かれていた。
「霧野くんはどのページを呼んでたの?」
「えーと、最後らへんなんだけど…」
「ねぇ、ちょっとだけでいいから読んでよ」
「え!?…まぁ良いけど」
霧野くんはゴホンっと一度咳をし、口を開けた。
「『I LOVE YOU』、僕はこの言葉をどうしても、自分の声で言いたかった。
綺麗な花もなにもないけど、聞いてほしいんだ」
「…良いなぁこの言葉。ロマンチック…」
私は夢を見ていた。そして夢見たあまり、ため息がつく。
「『愛してる』って意味だけど、ここだけ翻訳されてなくて、いいなって…」
「うんうん」
霧野くんが小説を読む。
なんだか、特別な感じがする。
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