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第1話:変わってしまった関係
「ねぇ、ハル君、いっしょに、あそぼ♪」
「うん、いいよ。アヤちん!」
春人(はると)ことオレ。
アヤちんこと彩香(あやか)。
二人は幼馴染。
家が隣同士で幼稚園の時から、いつも一緒に遊んでいた。
「はっはっは……ハルト君は、お利口さんだな。将来はうちのアヤカをお嫁さんに、どうだ?」
彼女の父親は、優しい資産家の大金持ち。
彩香は俗にいう令嬢だ。
「うん、アヤカも、ハル君のこと大好き!」
幼い時の彼女は、本当に天使のように可愛かった。
いつもオレにくっ付いきて、一緒に遊んでいた。
◇
「春人(はると)、早く起きなさいよ! 朝よ! 仕方がないから、一緒に登校してあげるんだから!」
オレたちが小学生になってから、彩香は少し変わった。
表向きは文武両道な美少女。
でも何故からオレに対しだけ、いつもツンツンしているのだ。
「まったく、私がいないと駄目なのね、春人は。仕方がないわね!」
何かとオレに世話をやいてくる。
いつも一緒にいる幼馴染で、素直になれない二人。
お互いに微妙な年頃の関係だった。
だがオレたちが十一歳……オレが小学五年生の時、“事件”が起きる。
◇
「お、お父さん……お、お母さん……」
オレの両親が交通事故で、亡くなってしまったのだ。
家族は両親だけ。
他に血縁も無くて、オレは天涯孤独の身になってしまう。
生まれ育った我が家も、転売にかけられ更地に
オレはどこにも居場所がなくなる。
◇
「春人君……ご両親のことは大変だったね。今日から、この部屋を使いなさい」
そんな時に助けてくれたのが、彩香の父親。
オレの生活を、全面的に援助してくれたのだ。
「ありがとうございます……これから、よろしくお願いいたします……」
「し、仕方がないわね。誕生日が早い私が、春人のお姉ちゃんになってあげるんだから! だから一日も早く、元気になるのよ!」
両親を失ったオレにとって、彩香の家族は救いだった。
いつも明るい雰囲気で、オレのことを助けてくれた。
お蔭で小学六年になった頃には、オレはすっかり元気になる。
でも両親を失ってから、過食症でちょっと肥満児になってしまった。
◇
「ちょ、ちょっと、春人⁉ あんた丸くなりすぎよ! 中等部で、それはマズイわよ! 仕方がないから、一緒に登校してあげるわ!」
中学校に入学してからも、オレの肥満は加速していく。
頑張って運動や筋トレ、走り込みを毎日頑張った。
だが、一向に痩せない。
どうやら食事の量……摂取カロリーが多すぎたのだ。
病院の先生の話によると、両親の事故死による精神的な過食症だという。
ゆっくりと治していくしかないかった。
「もう、まったく仕方がないわね! 春人ったら!」
そんな時でも彩香はツンツンしていた。
中学時代のオレたちは、幸せな幼馴染の関係だった。
◇
だが、そんな彼女に異変が起きる。
あれはオレたちが高校一年生。
たしか秋くらいのことだった。
「ちょっと、春人! 何やってんのよ! あんた馬鹿じゃない! このクズが!」
彩香の性格が、激変してしまったのだ。
今までのツンツンとは、全く別物な性格に。
「はっ? クズでのろまな春人の分際で、ダイエットの走り込み? いつも無駄って言っているのは分からないの、この単細胞は⁉」
いわゆるパワハラ攻撃。
オレに対してだけ、裏で罵詈雑言を言ってくるようになったのだ。
何故、突然そうなった、オレに分からなかった。
もしかしたら原因は、その頃の彩香は、公私ともに忙しく大変そうだった。
一過性のストレス発散なのかもしれない。
だからオレは我慢した。
大事な幼馴染の彩香のために。
彼女からの罵詈雑言と暴力を、ずっと我慢していったのだ。
だが彩香からの罵詈雑言は、一過性のものではなかった。
「はぁ? 高校を出て、すぐ働いて、一人前になりたい、ですって⁉ 何万回言えば分かるのよ? あんたみたなクズじゃ、一人前になんてなれないよ!」
それどころか日に日にエスカレートを。
結果として高校三年間、毎日のように続いていった。
あの頃のことは思い出しくもない。
何故ならオレにとって、毎日が地獄だった。
彩香は誰もいない場所で、すぐに豹変した。
学校の誰もいない教室で。
通学路の物陰で。
特にオレの住んでいた離れの部屋は、最悪の場所だった。
「はぁはぁ……これで分かったでしょ!」
彩香は馬乗りになって、よくオレ暴行を加えてきた。
「あんたは一生私の奴隷を、この部屋でしているのが幸せなのよ!」
とにかく毎日のように、彩香に虐げられ暴力を受けていた。
いったい何が彼女を、ここまで変えてしまったのか?
――――今思うと、彩香も家と学校、あとプライベート“何か”に困っていたようだった。
だが当時のオレは調べることもしなかった。
何故ならオレは壊れていた。
地獄のような三年間で、オレの心は壊れていたのだ。
◇
だが人生に転機が訪れる。
卒業前、オレは就職が決まったのだ
偶然、出会った社長さんに、気に入られて採用されたのだった。
まさに運命的。
更に、その会社は遠い県外で、社員寮も完備。
明るい転機に、オレの心は力を取り戻す。
思い切って彩香に、県外就職のことを話すことにした。
強い決意をこめて。
「彩香……聞いてくれ。オレはこの家を出ていく」
「はぁぁ? 何、言ってるのよ⁉ あんたみたいなクズな豚が、この小屋以外で息していけると思うの⁉」
「ああ、大丈夫だ。来週から県外で働くのが決まった。寮に住みながら」
「えっ……えっ……なに、それ……?」
「だから、お別れだ。幼馴染の関係は解消……もう二度と会わない」
「え……そんな……」
絶縁されて、彩香は呆然としていた。
現実を逃避するように、目は泳いでいる。
「そ、そんな……あのハルくんが……私の春人が……私の元を去っていくなんて……こんなの夢よね……」
完璧に放心状態。
いつものような罵詈雑言を一言も発せない。
何かを呟きながら、立ち尽くしていた。
だが決意を決めたオレは、後ろを振り返らない。
「それじゃ、さよなら、彩香」
こうしてオレは自由を勝ち取った。
最悪の幼馴染を絶縁。
新しく明るい自由な人生を、歩み始めるのであった。
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