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「#落ちたい」や「#落下」のキーワードが、Twitterのトレンドに入ってくるようになった。
その原因はわからなかった。緑野らいむでさえわからなかったのだが、主に中高生のあいだで、この「落ちる」という感覚を味わいたくて仕方ない、そんな子が急増している。
私は「いいね」のついた「#落ちたい」のツイートを丹念に読んでいった。全国のバンジージャンプの情報が飛び交っており、なかには海外旅行のついでに「落ちて」きた、というツイートまであった。
らいむでさえ『落ちたい』の呪縛にとらわれてしまった。しかもそれをまだ隠している、TwitterでもInstagramでも。
私と村崎はティーンズ雑誌「ACT」の編集部を取材した。
ちょうど今作業しているのが、バンジージャンプの特集号だという。
どこにあって、アクセスはどうしたら早くて安上がりか、バンジージャンプ以外の楽しみはそこにあるか、バンジーに際してのファッション──スカートやワンピースだとショーツが見えてしまう可能性もあるため──スパッツやパンツスタイルのバンジー向けコーデなどなど……。
そこへ、コーディネート撮影を終えた専属モデルの少女が、カメラマンやスタイリストのスタッフ達とともに「ACT」編集部に戻ってきた。
少女はカメラを向けるとぺこんと一礼してこちらへ近づいてくる。
「おつかれさま、バンジー向けコーディネートの撮影でしたか」
「そうです、現実という映画のアクトレス! 『ACT』十二月号の特集なんです! みんな買ってね!」
モデルの子……らいむと同じ歳ぐらいの子が、雑誌「ACT」のキャッチコピーを口にしながら両手ピースをした。なかなかテンションが高い。
「どうしてこんなにブームになったのか、ええと、お名前は?」
「『ミルラ』と申します、モデルネームは」
「ミルラさんもバンジージャンプ体験したのでしょうか?」
「何度もです!」
「それはどこで? あちこち?」
よみうりランド一択ですね、とミルラが言った。
「ハッシュタグで『落ちたい』とつぶやいたことは?」
「最近毎日のようにつぶやいてます」邪気のない笑顔でミルラは答えた。
「ほかのモデルさん達はどんな感じなのかな? バンジージャンプや『落ちたい』について」
「ほとんどみんな、タグで主張しなくても、バンジーしてみたいって思ってると思います」
「一切そのタグを使わない緑野らいむさんはどうだと思いますか」
「うーん、それは人それぞれですし……でもらいむちゃんは自分で怖がりだって言ってましたし。それにらいむちゃんは影響力があるから、怖い人には絶対できないバンジーを勧めようとは思ってないのかもですね」
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